貴志祐介「罪人の選択」あらすじ・感想!切なさに満ちた短編集

小説

「青の炎」「悪の教典」などの代表作で知られる作家・貴志祐介さん。

先月2年半ぶりの新刊となる「罪人の選択」が刊行されました。
デビュー前に雑誌掲載された「夜の記憶」を含む4編が収められた貴重な短編集です。

発売日同日に購入しましたが、ようやくあらすじを書き終えましたので、ネタバレを避けて紹介したいと思います。

 

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あらすじ

 

夜の記憶

この作品は2つの物語が交互に描かれていきます。

まずは、光の届かない海底で目覚めた水棲生物の「彼」の物語です。
「彼」は、頭部の触角と全身の感覚毛から超音波を出し、その反響によって周囲の環境を認識します。
そして「彼」は、仲間の住む海中都市を目指しながら、過去に思いを馳せていきました。

もう1つの物語では、異星人に襲来されて地球を引き渡すことになった人類の姿が描かれていきます。
三島暁(29歳)とその妻オリメ(22歳)は、エメラルドグリーンの海が広がる南の島で地球に残れる最後の日を過ごしていました。
明日には、2人の人格や記憶のデータをチップに移動させ、他の惑星へと送られることが決まっています。

オリメは、暁(たかし)と同じ惑星に行けるものとばかり思っていましたが、別々の惑星に送られることを知り、失意の底に陥ります。
暁が姿を消した妻を探しに行くと、ジェット・ボートで海を疾走する彼女を見つけます。

どこか遠くへ行くつもりなのか、逃げようとするオリメを暁が別のジェット・ボートで追いかけます。
しばらく続いた追跡劇もオリメがボートを停止させたことで終わりを告げると、なぜ私たちがこんな目に遭わなければならないの、とオリメは涙を流します。

そして地球最後の夜、月光に輝く海の上で語り合う夫婦。
迎えたラストで2つの物語が合流し、1つの結末へと向かいます。

 

「呪文」

古代日本文化の専門家である金城が降り立った星は、通称「まほろば」と呼ばれる植民惑星。

地球からやって来た移民たちが、何世代にもわたりこの地で過酷な労働をしながら暮らしてきましたが、彼らの「諸悪根源神信仰」が、銀河の驚異になるのではないか、と懸念されていました。
この信仰は、神をひたすら呪う、といった反宗教的なもので、この信仰に冒された他の植民惑星が滅亡への道をたどっていました。

銀河の富を独占し、銀河を支配している星間企業・ヤハウエから依頼された金城は、彼らの信仰が本当に危険なものかどうか調査しなければなりません。
金城は古代日本の信仰の特徴からして、彼らの宗教活動に危険性がないことをヤハウエに伝えます。

しかしヤハウエはこの惑星に「石打ち」の処置を行うことを決めました。
「石打ち」とは、狙い定めた星に小惑星を打ち落とすというもので、もし実行された場合「まほろば」は消滅してしまいます。
「石打ち」を中止させるには、この惑星における信仰には危険がないということを証明する以外にありません。

「まほろば」の住民を救いたいと考える金城は、超小型カメラをつけたマガツ蠅を自在に操り、村の偵察を始めます。
しばらくすると畑を見つけますが、突然起きた突風により、農作物に甚大な被害が発生してしまいました。
農作業をしていた男は阿修羅のごとき形相で神に向けて怒りの叫びを上げ、金城が遠隔操作する昆虫を睨みつけます。

そして「マガツバエが」と、男が呟いたその時でした。
突如そのハエが消滅してしまいます。
この星の住民たちは念動力が使えるのか、と驚く金城。
村の有力者たちに尋ねてみますが、そんな力はないと言います。
嘘をついている様子もありません。

調査を再開することにした金城は、村の奥で豚を模したような顔をした6体の地蔵を見つけますが、全ての地蔵が徹底的に傷つけられています。
古代日本の信仰や習俗では、まず考えられません。
この6体の像は「マガツ神」の像だからお仕置きをしている、と教えてくれたのは、この村に住むタミという女の子でした。

彼女たちの祖先は、「まほろば」にやって来た当初から災害に見舞われ続けたと言います。
それでもマガツ神の像を傷つけ警告することで、災は減ったとのこと。
タミは首に紐でぶら下げたマガツ神の像を金城に見せますが、悪いことが起きた時にナイフで痛めつけるらしく、その像は傷だらけでした。
金城に懐いている彼女は、純朴な優しい少女のはずです。
大人から教えられた通りにしているとはいえ、異常な行為と気づいていないタミに、金城はいたたまれない気持ちになりました。

さらに彼女は自分の容貌に強い劣等感を持っていました。
この星の住民たちは「まほろば」の環境に適応するために受けた遺伝子操作の影響で顔の皮膚がたるんでしまい、鼻は弓なりに湾曲、目は分厚いまぶたに覆われていて、タミは11歳という年齢でありながら、まるで老婆のようでした。
金城はそんな彼女に、もし将来、他の惑星に行くことがあったら、顔を元に戻すことができる、と教えてあげます。
そしてAIを使い、タミの顔から遺伝子操作の影響を取り除いた本来の彼女の顔を画像に映し出します。
するとそこに現れたのは、金城も言葉を失うほどの可愛らしい顔をしたタミの姿でした。

そんな中、農作物を食害するマガツ虫がトウモロコシ畑で発見された、と騒ぎが起きます。
おぞましい姿をしたこの虫にはどんな農薬も効きません。
なぜこんな害虫がこの惑星にだけ生息するのか、金城も首をひねります。
何もかも神の祟りに結び付けてしまう村人たちは、マガツ神に対して報復すると言い、まほろば神社で行われた「報復の呪詞」は荒れ狂った村人たちにより、境内が無残な姿をさらします。
それでも祟りが止まないことに驚いた村人たちは、最後の手段へと出ることを決意。

マガツ神とは、この植民惑星で災害に見舞われた住民の深層意識が作りだしたもの、と考えていた金城でしたが、信じられないものを目撃します。
そして銀河を支配する星間企業の正体、超常現象の謎、マガツ神とは何だったのか。

驚愕なラストが待っています。

 

罪人の選択

終戦翌年の1946年8月21日。
磯部武雄は、佐久間茂に猟銃を突き付けられ、戦時中に掘られた防空壕の中へと連れて行かれます。
死刑の執行に立ち会うのはヤクザの浅井正太郎。
しかしこうなってしまったのも磯部の自業自得でした。
磯部は自分に女房と子供がいながら、佐久間が戦争に行って留守の間、佐久間の妻に言い寄り肉体関係を持ったからです。

それでも食料に困っていた佐久間の女房を磯部が助けたことがあったのも事実。
机の上に焼酎の一升瓶と缶詰が置かれ、どちらかを選ぶことを強いられます。
しかし片方には毒が入れてあるとのこと。
焼酎を選ぶならコップ一杯を、缶詰を選ぶならば中身の全てを平らげなければ即銃殺、もし毒入りを避けて正解を選ぶことが出来れば逃がしてもらえるようです。

そして佐久間が「罪人は必ず間違った選択をする」と、言います。
磯部がたまたま過ちを犯しただけなら正解を選び、もし当初から悪意があり罪を犯したなら、毒入りを選ぶはずということでした。
命がかかった選択を迫られた磯部は、なかなか覚悟が決まりません。
長い間逡巡していると、見かねた佐久間がヒントを出します。

「正解は、おまえへの感謝。毒入りの方は、おまえに対する憤りだ」と。

それから18年後の1964年10月10日。
黒田正雪は、佐久間満子に猟銃で脅されて、終戦後に残されたままの防空壕の中へと連れて行かれます。
黒田は満子に結婚をちらつかせて、彼女から多額のお金を借りていましたが、全てギャンブルで使っていました。
黒田は嘘でごまかそうとしますが、満子は騙されません。

さらに黒田には、満子の他にも数多くの恋人がいましたが、満子がなによりも許せなかったのは、まだ15歳の妹の史子を黒田が誘惑したことでした。
黒田はここでも震えた声で言い逃れようとしますが、満子が涙ながらに話します。
昨日の晩、史子が自殺してしまった、と。
そして残された遺書には、黒田にされたことの全てが綴られていたことも。

満子は妹の仇を討つつもりですが、姉妹の父親が亡くなった時、下心があったとはいえ、黒田に助けられたことも確かでした。
そこで満子が黒田に最後のチャンスを与えます。
机の上に置かれた焼酎を飲み干すか、それとも缶詰を食いきるか、どちらかを選択しろ、と。

ただし、片方に毒が含まれていることを聞かされ、恐怖で身をすくませる黒田。
今から18年前にも、満子の父親の佐久間茂が、黒田の父親である浅井正太郎と、ある男を拉致し、この場所で同じゲームを行った、と満子から教えられます。
親父が生前に、酔っぱらいながらそんな話をしたことがありましたが、頭の片隅にぼんやり残っている程度でした。

助かる確率は2分の1。
生死をかけた選択に対して、思考を巡らせる黒田。
満子は1つだけヒントをあげます。

「18年は、古い恨みをぬぐい去るにも、新たな怨念を生み出すにも、充分な年月なのよ」と。

 

赤い雨

世界は破壊的な生物「チミドロ」によって蹂躙されていました。
「チミドロ」はもともと、資源枯渇への対策として、エネルギー企業が遺伝子組み換えで生み出した藻類でしたが、過激派環境団体によって実験用ドームを破壊され「チミドロ」が外に放出しました。
海に落ちた「チミドロ」の胞子は大繁殖し、太陽の光を遮り、多くの海洋生物を死滅させると、大気中に漂い空を赤く染めました。

そして赤い雨を降り注ぎ、地球上にいる多くの生物を絶滅に追い込んだのです。
独立栄養生物の「チミドロ」は他の生物を補食する必要もない自己完結した生物であり、そのうえ食物連鎖の頂点に位置する生物さえも補殺するほどのどう猛さがありました。
チミドロの胞子は人の皮膚に取りついても皮膚を赤く染めるだけすが、突然、全身の組織を食い尽すRAINと呼ばれる疾患を引き起こすことがあります。

いまだ治療法は見つかっておらず、もし人がRAINに罹れば半日で絶命する運命が待っています。
人類は一度、 世界中の英知を集め「チミドロ」を地球から除去するといったプロジェクトを立ち上げるも、この破壊的な生物になすすべがありません。
そんなチミドロにも、全くメリットがないわけではなく、チミドロを原料とすれば地球上のどこででも燃料だけは尽きることがありません。

地球上で唯一「チミドロ」の汚染から守られたドーム内に居住が許されるのは、一部の特権階級だけで、ドームの外で生きている人間は、ドームの中にいる人間を敵視する傾向がありました。
一度外に出た人間が再びドーム内に入るには、強力なエアーシャワーを浴びてチミドロの胞子を吹き飛ばし、その後も徹底的に洗浄して、ようやく中に入ることが許されます。

ドームの外で生まれ育った橘瑞樹(たちばな・みずき)がドームに招かれるためには、彼女が暮らす第7自治区居住区の統一学力テストで優秀な成績を収めるしかありません。
そして見事トップの成績を取った瑞樹でしたが、同じ居住区に暮らす住民から家の財産と引き換えに、成績の売買を持ちかけられます。
その昔、瑞樹の父親が貧しい家族のために成績を他人に譲り渡していて、ドーム行きを諦めていました。

瑞樹も父親に倣い成績をゆずろうとしますが、自分と同じ思いをさせまいと考えた父からドームへ行くように強く説得されます。
その時の瑞樹は、罪悪感を感じつつも、心の奥底ではドームへ行ける喜びを感じていました。

それから8年が経ち、ドーム内に居住する瑞樹の肌はすっかり漂白されて、赤い部分は左の二の腕にだけ薄く残っているだけです。
RAINの治療法を研究する医師になっていた彼女は、ドームの外で暮らすスラムの人たちのためにも、治療法を見つけなければなりません。
外が小雨になったところで、防護服を着た瑞樹はドームの外に出て、第9自治居住区に住んでいる藤林という医師を訪ねます。

ドームの外で暮らす人たちは皆赤い顔をしていましたが、藤林の皮膚も赤銅色に染まっていました。
藤林の手を借りた瑞樹は、RAINで死んだこの地区の水上町長の遺体を入手し、ドーム内に運び入れますが、当然許可などもらっているはずありません。
もし見つかれば規則違反として厳罰に処されてしまいます。

瑞樹は自分専用の実験室へと遺体を運びますが、水上町長は仮死状態になっていただけでまだ生きていました。
意識を回復した水上町長は自分がRAINを発症したことを覚えていません。
水上にこれまでの経緯を話し協力を仰ぐと、人格者である水上は自らが実験台になることを快く承諾してくれましたが、RAINの存命患者はチミドロの遊走子並の危険性がある、と注告します。

それでも人類の未来のために覚悟を決めた瑞樹は、ドームの中で生まれ育った麻生光一(あそう・こういち)のラボに向かいます。
光一は、現在棚上げになっている「チミドロ」の根絶を目指すプロジェクトの一員であり、瑞樹が外から持ち帰ってきたタカラダニのDNAを調べていました。
するとタカラダニが最近になってチミドロの胞子を捕食するようになったことが判明。

ようやく人類の勝利に一縷の望みが見えてきた瞬間でした。
そして光一と情交を重ねた瑞樹が、光一の部屋を出ると、ドーム内に警報が鳴り響きます。

瑞樹の研究室から姿を消した水上をドーム内のセンサーが感知し、RAINの発症者がドームの中にいることが見つかってしまいました。
おそらくRAINの症状が現れた水上は、意識が混濁したまま歩いていると思われ、早く見つけなければなりません。

ドーム内は一気に緊張が走ります。

はたして瑞樹は青い地球を取り戻すために、そしてスラムで苦しむ皆のためにもRAINの発症メカニズムを明らかにすることが出来るのでしょうか。

感想

デビュー前に執筆された「夜の記憶」は何ともいえない物悲しさがありました。

迫害者への憎悪を描く「呪文」も切ない気持ちになりますが、少しだけホッとする場面も。

表題作となった「罪人の選択」は罪人に与えられたヒントを手掛かりに、答えを探す楽しさがありましたが、ラストはこれまた切ない。

恐ろしい感染症が猛威をふるう「赤い雨」は、ぜひ読んで欲しいタイムリーな一冊です 。でも男の流した涙がやっぱ切ない。

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