東野圭吾「容疑者Xの献身」ガリレオシリーズ初の長編作!あらすじ・感想

小説

2005年8月に単行本として発売された東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」。
ガリレオシリーズ第3作目です。
シリーズ初の長編作となった本作は、2006年に第134回直木賞を受賞したほかにも、国内主要ミステリランキングで首位を独占。
さらに2012年には世界で最も権威のミステリ賞、「エドガー賞」の最優秀長編賞の候補にも選ばれました。

今回もまた、ネタバレ無しであらすじを紹介します。

 

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あらすじ

8年前、赤坂にある店でホステスをしていた花岡靖子。
富樫慎二と結婚しますが、仕事をせずに靖子から金銭をむさぼり、暴力を振るうような男でした。
前夫との間にもうけた娘・美里も富樫に怯えるようになり、弁護士を通して離婚が成立。

ところが富樫はその後も靖子の前に現れ復縁を迫ってきます。
困った靖子は赤坂から錦糸町のクラブに移り、住所も変えました。
現在はホステスを辞め中央区にある弁当屋「べんてん亭」で接客係として働きますが、そこにも富樫はやって来ました。

靖子は店の人に気づかれないように、外のファミリーレストランで富樫を待たせます。
午後6時になり仕事を終えると、靖子は富樫に復縁はないことをはっきり伝えに行きますが、富樫はすでに靖子の自宅の場所まで突き止めていました。

靖子が中学生の娘の美里と2人暮をしているアパートまでやって来た富樫。
追い払おうとしますが、騒がれるのを恐れ部屋にあげてしまいます。
ちょうどその時、学校から帰ってきた美里は怯えながら奥の部屋に隠れます。

「もう絶対に来ないで」と、靖子はお金を渡しますが、「さあ、それはどうかな」と、富樫は言ったあと低い声で笑います。
靖子が彼からは逃げられないと思ったその時でした。

静かに近づいて来ていた美里が、富樫の背後から頭に花瓶を叩きつけます。
一度は倒れ込んだ富樫でしたが、よろめきながら立ち上がると、怒声を上げながら美里に襲いかかります。

馬乗りの形になり美里を殴りつける富樫。
このままだと美里が殺されてしまうと思った靖子は、こたつに繋がれているコードを富樫の後ろから首にかけ、思いっきり引っ張ります。
富樫はコードを外そうと必死にもがきますが、今度は美里が男の上に乗り、押さえつけます。

「おかあさん、はやく」と、叫ぶ美里の声を聞いた靖子は全力でコードを引き、富樫を絞め殺しました。
呆然とする靖子とすすり泣く美里。
「どうしよう……」と、靖子がつぶやいた時、大きな音を聞きつけた隣人の石神哲哉が様子を窺いに来ます。

靖子は死体を隠したあと、ドアにチェーンを掛け少しだけ開けます。
「何かあったのですか」と、尋ねながら部屋を覗いてくる石神。
靖子は平静を装い、男を帰らせます。

このあと、靖子は自首することに決めます。
殺しを手伝った美里が自分も自首すると言い出しますが、靖子は全て自分がやったことにして、美里だけは守るつもりでいました。
しかし、警察に嘘を見抜かれ、美里も逮捕されるのではないかと絶望的な思いに駆られます。

そんな時、先ほどの隣人、石神から電話が掛かってくると「今からそちらにお伺いしてもよろしいですか。女性だけで死体を始末するのは無理ですよ」と言ってきました。

どうして知られてしまったのか。
観念した靖子が石神を家に上がらせると、彼は冷静に死体を確認します。
石神がこの事態に気づいたのは、先ほど来た時にドアの隙間から見えた部屋の状況だけで推理したからでした。

靖子は石神の鋭い観察力に驚かされます。
難しいが、自首しないですむ方法はあるという石神。
花岡母娘は協力を頼むことにします。

しかし、2人が石神について知っていることは、数学の高校教師ということだけで、隣人としての付き合いはほどんどありません。
ではなぜ靖子たちを助けてくれるのか。

石神は弁当屋の接客をしている靖子に会いたくて、彼女の出勤の日だけ弁当を買いに来るなど、好意を抱いていることは誰の目にも明らかでした。
しかし、お世辞にも見た目が良いとはいえない石神のことを靖子は何とも思っていませんでした。

その靖子から被害者の情報を訊き出した石神は知恵を絞ります。

死体が富樫慎二とわかれば、必ず警察は花岡母娘に事情聴取を求めるはずで、刑事の執拗な追及に2人が耐えられるとは思えません。
かといって、死体を隠しても、いつか見つかるのではないかと不安にさらされながら母娘は生きていかなければなりません。

彼女たちが、これからも安心して暮らせるようにするにはどうすればいいのか。
そんな過酷な条件の中、石神は驚くべき計画を立て実行します。

3月11日。

旧江戸川の堤防で全裸死体が発見されます。
死体は男性で、首には絞殺の痕があり、顔は潰されていました。
さらに指紋から身元が特定されないように指が焼かれていました。
解剖の結果、死亡推定時刻は10日の午後6時以降と判明。

死体の近くには新品同様の自転車が落ちていました。
タイヤは2つともパンクさせられており、被害者が殺された10日に盗まれた自転車でした。
現場から少し離れた所に被害者のものと思われる衣類が一部燃えた状態で、一斗缶の中に押し込んでありました。

さらに有益な情報を捜査陣が掴みます。
亀戸にあるレンタルルームで1人の男性客がいなくなり、従業員がそのことに気づいたのは3月11日ということでした。
盗難車から検出された指紋と消えた客の部屋に残された指紋が一致しました。

そして、宿帳に書かれていたその客の名前が富樫慎二でした。
警視庁捜査1課の草薙と岸谷は、富樫の元妻花岡靖子を訪ねて、富樫が殺された3月10日の夜のアリバイを尋ます。

石神からは、全部自分がうまく処理したから何も心配しなくていい、と言われていた靖子。
富樫の死体をどう処理したのか、何も聞かされていません。
ただ、石神の指示通り刑事に答えるだけでした。
映画館に行き、ラーメン屋で食事をしてから、カラオケ店に行き11時頃に帰宅したと。

草薙たちは、容疑者の隣の部屋に住む石神哲哉にも靖子の様子などを訊きに行きます。
その時に、石神が自分と同じ帝都大学出身だと草薙は知ります。

刑事たちが去ったあと石神は家の電話から通話記録を残さないように外の電話ボックスを使います。
電話に出た靖子から、感謝を伝えられた石神は幸福感に包まれました。

その後、警察の調べで富樫は殺される数日前に靖子を探していたことがわかり、靖子の疑いは深まりますが、映画館などのアリバイは裏が取りにくく、捜査に苦労を強いられていました。

母校の帝都大学にやって来た草薙は、帝都大学理学部の助教授、湯川学のいる研究室を訪れます。
湯川は草薙の大学時代の友人でもありますが、科学者の視点から事件解決のための助言をしてくれる人物でした。

草薙はこの日、旧江戸川で死体が見つかった事件のあらましや、容疑者の隣に住む石神という男が同じ帝都大学出身だったことを湯川に話します。
すると、湯川は石神のことをよく知っていて、石神は湯川と草薙の同期で、湯川の旧友という事でした。

湯川は誰もが認める天才物理学者ですが、石神も相当な天才だったと言います。
数学科に進んだ石神のことを50年か100年に1人の逸材と評価する教授もいるほどでしたが、石神は家庭の事情で数学者になる夢を諦めざるを得ませんでした。

草薙から石神の住所を教えてもらった湯川は、20年以上会っていない友人を訪ねます。
石神は突然現れた旧友に驚きながらも再会を喜びました。
石神の部屋に来た刑事が同じ帝都大の出身で、湯川の友人だと聞かされた石神は少し動揺しますが、久しぶりの再会を懐かしみ学生時代の思い出を語り合いました。

翌日、靖子がホステスをしていた頃の常連客だった工藤邦明が「べんてん亭」にやって来ます。
優しかった工藤が合いに来てくれたことを喜ぶ靖子。
仕事が終わり、工藤にアパートまで送ってもらったとき、親しげに話しているところを石神に目撃されてしまいました。

その時、靖子は気づきます。
石神が靖子に好意を持っているから、花岡母娘を助けてくれている。
それなのに、他の男性と仲良くしていたら石神はどう思うのだろうか。
工藤と会わないほうがいいのなら、それはいつまでだろうか。
永久に自分は他の男性と結ばれることはないのか、と焦燥感にも似た思いに襲われました。

一方、草薙に捜査の進捗状況を訊いた湯川は、容疑者の顔を拝見したくなり、石神を誘って靖子が働いている弁当屋に行きます。
石神は刑事と友人である湯川を警戒しつつ「べんてん亭」に行きますが、ちょうどその時、工藤邦明も店にやって来ました。

以前、靖子をアパートまで送ってきた男だと石神は気付きます。
靖子がこの男に華やいだ表情を見せていたことも覚えていました。
この男は何者なのか。なぜ靖子と親しいのか。
その瞬間、鋭い洞察力を持つ湯川は、石神の顔に嫉妬の色が浮かんだところを見逃しませんでした。

出来上がった弁当を受け取り店を出た2人は、ホームレスたちの小屋が多く見られる新大橋に向かって歩いていきます。
別れ際に湯川は「暇の時でいいから考えておいてくれ」と、石神に問題を出します。

「人に解けない問題を作るのと、その問題を解くのとでは、どちらが難しいか。ただし、解答は必ず存在する」
それに対して、「考えておこう」と石神が返したあと、湯川は去っていきました。

後日、石神は工藤と別れなければ、報復するといった内容の手紙を靖子宛てに送ることを考えます。

一方、石神が靖子に好意を持っているという情報を手に入れていた草薙は、石神を靖子の共犯者と仮定し、もし殺害現場が別なら石神が死体を運んだと推理します。

靖子のアリバイで成立していないのは、娘と映画館に入っていた7時から9時10分の間だけで、その後に行ったというラーメン屋とカラオケボックスでは確認が取れていました。
映画館に2人がいたことは証明されても、その約2時間の間に靖子と石神によって犯行が行われた可能性が疑われました。

さらに、死体の見つかった場所が犯行現場だったなら、被害者は現場に置かれていた自転車で来たことで間違いないだろうという事でした。

石神が事件に関係しているんじゃないかと思いはじめた湯川も、事件を追っていましたが、草薙の説には否定的でした。

事件に石神が関与し、殺害が計画的なものだとしたら、自転車の指紋の消し忘れ、被害者の衣服の燃え残しなど、そんな初歩的なミスを犯すはずがないと言います。

では、湯川の推理はというと、石神は殺人には関与していなく、事件の隠ぺいや、捜査陣の追及を緩めるための方策を練り、靖子や美里の供述は全て石神の指示だったというものでした。

ただし、自分の推理が正しければ、せっかく出会えた旧友を再び失ってしまいます。湯川は自分の思い過ごしであってほしいと願っていました。
ところが、事件当日の昼間、美里が夜に靖子と映画に行くという話を友達にしていたことがわかりました。

計画的殺人とみて間違いないんじゃないか、という草薙に「ありえない」と、湯川は首を振りました。

後日、草薙は石神の勤める学校で彼に会ってきたことを湯川に話します。
その時、石神が生徒に作る試験問題について「難しくはありません。ただ、思い込みによる盲点をついているだけです」と、言っていたことを伝えます。

すると何かに気づいたのか、様子が変わる湯川。

「そんなことができるはずがない・・・」と、呟きました。
さらに、草薙が学校の事務室でもらってきたという石神の勤怠表を見た湯川は、低いうなり声をもらします。
草薙は、哀しみと苦痛に歪んだ表情を見せる湯川に、何がわかったのか訊くことが出来ませんでした。

後日、真相に近づいた湯川は石神のもとを訪ね、以前に湯川が石神に出した問題を湯川自身が答えを出します。

すると「自分で考えて答えを出すのと、他人から聞いた答えが正しいかどうかを確かめるのとでは、どちらが簡単か」と、今度は石神が湯川に問題を出します。それは「P≠NP問題」というものでした。

さらに「おまえはまず自分で答えを出した。次は他人が出した答えを聞く番だな」と、石神は言い残し去っていきました。
この時、石神は湯川がすべてを見抜いていることに気づき、花岡母娘を守るための最後の手段に出る覚悟を決めます。

靖子に電話を掛け、郵便受けに手紙を入れたことを伝えたあと、指示を出し続けてきた電話はこれで最後になることを告げます。

「これから私にどのようなことが起ころうとも、あなたもお嬢さんも傍観者で居続けてください。それがあなた方を救う、唯一の手段です」と。

説明を求める靖子に「いずれわかります」と、言い残して電話を切りました。
そして、石神が警察に提示した1つの答え。
湯川が草薙に言い放ちます。
「その答えが正しいかどうかを確かめなければならない。きみたちは挑まれているし試されているんだ」と。

感想

天才同士が繰り広げる頭脳戦。
石神が作り出した謎は湯川でさえも容易に見抜けないほど、凄まじいもので、その仕掛けを短時間で考えついた石神の頭脳にも驚きです。
ラストで明かされるトリックは想像を絶する衝撃でしたが、湯川の友人を想う言葉に胸打たれるシーンもありました。
石神が施した仕掛けの全てを知った靖子のショックは計り知れないものだったと思います。
見返りを求めない石神の愛情は素晴らしいかったですが、そこまでしてくれなくても、と靖子さんも思ったことでしょう。

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