宮部みゆき「きたきた捕物帖」あらすじ・感想!江戸情緒たっぷりの物語

小説

先月発売された宮部みゆきさんの最新作「きたきた捕物帖」を読みました。

新シリーズの舞台は江戸深川。著者お得意の時代小説です。

それではネタバレを避けながら、あらすじのご紹介をしたいと思います。

 

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あらすじ

 

第一話 ふぐと福笑い

深川元町(ふかがわもとまち)の岡っ引き、千吉親分は、その人柄で周囲の人望を集めていました。
一番下の子分・北一が親分に拾われたのは、3歳の頃でした。
16歳になった北一は、親分のように格好良くもなく、小柄で貧相な体つきですが、気は優しい男です。

普段は親分が本業としている文庫(書物や雑品をしまう手箱)売りを手伝っています。
その文庫は親分の朱房(しゅぶさ) の十手にちなみ、〈朱房の文庫〉と呼ばれていて、たいへんな人気がありますが、本来だったら岡っ引きの十手に房は付きません。
ましてや朱色の房は、町奉行所の与力や同心が付けるものであり、岡っ引きが付けることはまず許されません。

朱房の十手は、本所深川方の同心・沢井蓮十郎(さわい・れんじゅうろう)から深い信頼を得ていた千吉親分だからこそ、特別に頂けたものです。
蓮十郎が隠居したあとは、本所深川方を引き継いだ倅の沢井蓮太郎が(さわい・れんたろう)が親分に手札をくださっていました。
それでも親分は、その十手をむやみに引き抜くことはせず、仲裁によって揉め事を解決する立派な親分です。

その親分が倒れた日、北一は深川の外れにある欅(けやき)屋敷のそばまで、文庫を振り売りに来ていました。
欅屋敷というのは北一が勝手にそう呼んでいるだけで、本当は椿山勝元(つばきやま・かつもと)の別邸です。
一休みしている北一を呼びかけたのは、欅屋敷の用人・青海新兵衛(おうみ・しんべえ)。

千吉親分が倒れたので、急いで家に帰りなさい、とせき立てられます。
新兵衛に商い物を預け、俊足の北一は家に向けて弾丸のように疾走。
親分は明け方に帰らぬ人となりましたが、死に目に立ち会うことはできました。
死因は自分で入手したフグを自分で調理して食べたことによる中毒事故でした。

千吉親分の文庫屋を受け継ぐのは、一の子分で万作という30過ぎの男と、その妻のおたま。
親分には目に障害を患っているおかみさんがいました。
性悪のおたまは、北一と一緒におかみさんまで、追い出そうとしますが、それには沢井蓮十郎が黙っていませんでした。

激しい怒りをあらわにしますが、親分がいなくなった家で、おたまがおかみさんを大事にするはずもありません。
そこで、万作夫婦がおかみさんに看板料として月ごとに一定の銭を払い、そのお金でおかみさんが新しい住まいに移ることを、蓮十郎の息子、蓮太郎が提案します。

蓮太郎の迫力に押されたおたまは、しぶしぶ承諾。
北一は北永堀町に移り住むことが決まり、文庫の振り売りは、しばらく続けさせてもらえることになりました。
問題は、岡っ引きの跡目でしたが、子分らに十手は継がせない、と生前の千吉親分が決めていたことを知ると、北一の兄ぃたちは家から散っていきました。

こうしてこの一件は蓮十郎のおさばきで、ひとまず落着。

家移りの日、北一は商い物を預けたまま忘れていることを、おかみさんに言い当てられ、驚かされます。
盲目のおかみさんは音だけでなく、匂いや気配を感じ取ることに長けていて、すべてを見通すことができる人でした。

そのおかみさんの新居は冬木町にある町家に決まります。
このあたりの大地主である「福富屋」の家作です。
「福富屋」から差配を任されているのは、通称、富勘(とみかん)と呼ばれている男で、生前の千吉親分とは懇意な関係を築いていました。

おかみさんの家移りが済むと、北一は自分の新居となる「富勘長屋」のある北永堀町へ向かいます。
ここでは、おととしの夏に浪人が腹を切って死亡したあと、今度は「富勘長屋」に住んでいた若い浪人が闇討ちに遭い命を落とすという事件が発生していました。
しかもその殺された人物は、北一があてがわれた部屋の前の住人だったようです。

こうして新生活が始まってから、しばらく経ったある日。
差配人の富勘が、本家の「福富屋」に揉め事を持ち込まれたと言います。
福冨屋の遠縁に伝わる「福笑い」で遊ぶと、悪いことが起こるらしいのですが、この正月、しまっておいたその「福笑い」を家の子供が持ち出して遊んでしまい、災難の連鎖が始まってしまったようです。

「福笑い」は顔の輪郭を描いた紙の上に、目隠しをしたまま目や鼻や口といったパーツを正しい位置に置くことがルールです。
しかしこの「福笑い」では、目隠しをした状態で、誰かが一発で正しい場所に目鼻口を置かねば、呪いの連鎖が止まらないということでした。
呪いの始まりは、福笑いのような顔をした3代前の嫁さんが、夫の家族からいびられ自殺してしまってからのようです。

北一がこのことを冬木町のおかみさんに話したところ「呪いの福笑い」をしてくれると言います。

そして翌日 ——。

用意された場所は福富屋の奥の客間。
北一は、おかみさんの千里眼としか表現のしようがない能力を目撃することになります。

 

第二話 双六神隠し

今朝、手習所に行くと言って長屋を出たあと、行方がわからなくなった11歳の松吉。
大家族の長男として家事を手伝い、幼い弟妹たちの面倒をよく見てくれる子でした。
住んでいる長屋は、福富屋の家作で、富勘が差配人です。
富勘と一緒に北一も捜しますが、松吉は見つかりません。

松吉には、裕福な家庭の長男として育った仙太郎と、魚屋の息子の丸助という同い年の親友がいました。
彼らは、一昨日に拾った双六(すごろく)で遊んだらしく、松吉が神隠しにあったのは、松吉のコマが〈かみかくし〉の書き込みのところで止まったせいだと言います。

仙太郎は気丈に振る舞っていますが、丸助は怯えて泣いています。
不気味な双六も、どこかに無くしてしまったようで、いくら探しても見つかりません。
北一は、彼らの話はうさんくさい、と感じていましたが、富勘は2人の言うことを信じ切っていました。

そして行方不明から数日後に、長屋の前でぽーと突っ立ているところを発見された松吉。
失踪期間のことは何にも覚えておらず、呆然としていました。
ひとまず安堵のため息をつきますが、呪いの双六で遊んだのは、松吉だけではありません。

仙太郎と丸助もサイコロを転がし、出た目の数だけ、コマを進めていました。
では、2人のコマはどこの書き込みの上で止まっていたのか。
丸助が〈きんさんりょう〉で、仙太郎が〈えんまのちょう〉だったようです。
何かしらの災難を予見するような書き込みに、松吉が2人の身を案じます。

それから3日後 ——。

魚屋の店先から金が出てきました。それも三両。
すると今度は仙太郎が煙のように姿を消してしまい、何日待っても帰ってきません。
いつかは親分みたいな岡っ引きになりたいと思っていた北一。
もし親分が生きてたら、この一連の騒動にどんな手を打つのだろうか、と考えます。
冬木町のおかみさんから意見を頂いた北一は、この一件を無事に解決することが出来るのでしょうか。

 

第3話 だんまり用心棒

子供の神隠し騒動から約半月 ——。

富勘が仲裁を頼まれたこの件は、若い男女の色恋沙汰でした。
腰を痛めた富勘の付き添いで、北一も話し合いの場に来ていました。
男の名は乙次郎といい、歳は18。
裕福な家庭に生まれたボンボンで、性質の悪い遊び人です。

女の名はおしんといい、歳は17。
質素な家庭で育った彼女は、いかにもおぼこな娘です。
おしんの付き添いで来ている父親は、おしんを嫁にもらってくれとは言いません。おしんの孕んだ赤子を乙次郎の子だと認めてくれるだけでいい、とお願いします。
おしんは、その横で涙を流しながら聞いているだけです。

しかし乙次郎はへらへらしながら、自分の子だと認めようとしません。
乙次郎には自分の乳母でもあった女中頭が付いて来ましたが、この老女は大きい口で、おしんに侮辱の言葉を浴びせます。
こうして話し合いは物別れに終わりそうでしたが、富勘の大芝居で乙次郎に一泡吹かせることに成功。
乙次郎たちは、逃げるように去って行きました。

その晩、北一が冬木町のおかみさんに今日のことを報告すると、一旦は笑い飛ばしますが、注意を促すことも忘れていません。

「乙次郎に悪い仲間がいたらやっかいだよ」と。

その2日後、乙次郎の父親はバカ息子を勘当。
おしんの家族に頭を下げ、遠慮するおしんにお金を受け取ってもらいました。
それから数日経ったある日、北一を呼び出したのは、蓮十郎の跡目である沢井の若旦那でした。
とある屋敷の離れの床下から骸骨が見つかったので、身元を判明したいと言います。

手伝いを頼まれた北一でしたが、まさか骨を掘り出す作業からやらされるとは思いませんでした。
それでもようやく掘り起こした骨と衣類の検分を行ったところ、ホトケの死因が病死か飢え死にだと判明。
家主の容疑は晴れましたが、ホトケの身元は依然としてわからないままです。

手がかりとなるのは、骨と一緒に出てきた真っ黒けな天狗の顔の根付け。
長命湯(ちょうめいゆ)という湯屋の釜焚きの右肩に、それと同じ彫り物をしている、という噂を耳に入れた北一。
長命湯を訪ねてみると、今にも倒れそうなぼろ湯で、主人もおかみも、みんな年寄りでした。

釜焚きの男は北一以上に貧相な体躯で、しかも猫背。
目には生気が感じられません。
長く伸びた髪は後ろで束ねてはいますが、驚くほど汚く、全身から埃とゴミの臭いがします。
話しかけても、なかなか答えてくれず、腕の彫り物と同じ形の根付けが出てきたことを説明しても、そんな物は見たことねえ、と一点張り。

「長命湯」の婆さん女中によると、去年の暮れに、裏庭でこの男が倒れていたのを見つけたと言います。
極寒だったにもかかわらず、浴衣1枚で靴も履いていなかったようです。
しかも、何を尋ねても口をきかないものだから、死んだ孫の名前を付けて
喜多次(きたじ)と呼んでいるとのこと。

うんざりし始めていた北一は、この薄気味悪い男のことは忘れて商売に励むつもりでしたが、それどころではなくなってしまいました。
富勘が不審な男たちに連れ去られたという一報が飛び込んできたからです。

それから3日後 ——。

あの日の夜に、福富屋に身代金を強請る投げ文があったことを人伝てで知った北一。
受け取り場所に3百両を北一に持ってこさせるように書かれていたとのこと。
おかみさんの耳にも入っていたのなら、どうして教えてくれなかったのか。
そのくらい務まるという北一と、そんな危険な真似をさせられないという女中のおみつ。
おかみさんは、怒鳴り合いへと発展した2人を落ち着かせた後、知る限りのことを話してくれました。

まず、北一と富勘を逆恨みした乙次郎の犯行とみて間違いないということ。
次に、乙次郎は北一を攫うために、身代金受け渡し人に指名したということ。
これらは疑う余地がないと言います。
受け渡し現場には、沢井の若旦那と御番所の捕り方が隠れて待ちかまえていましたが、失敗に終わったとのこと。

しょんぼりして長屋の4畳半に帰った北一は、まわりの店子たちが寝静まっても、膝を抱えて起きていました。
そんな北一の前に突如現れたのは、釜焚きの喜多次でした。
音もなく、闇に紛れて忍び寄るこの男は一体何者なのか。

「おいらに何のようなんだ」
北一に問われた喜多次は答えました。

富勘の居場所を知っている、と。

 

第4話 冥土の花嫁

北一が富勘長屋に住み着いて、4カ月が経った頃。
味噌問屋「いわい屋」の跡取りの万太郎が再縁することが決まります。
花嫁は23歳のお夏というおしとやかな女性で、万太郎は38歳。
「いわい屋」の主人夫婦は、祝言の式の引き出物は<朱房の文庫>をご所望でした。

ところが、その文庫に実家の屋号にちなんだ意匠をつけてほしい、と万作・おたまに注文しますが、おたまが多額の対価を要求してきたことで、「いわい屋」の主人夫婦はあきれかえり、この話は立ち消えとなります。
この噂を聞いた冬木町のおかみさんが「いわい屋」に少し待ってもらい、北一にやってみないか、と持ちかけます。

現在、北一が降り歩いている<朱房の文庫>は、文庫屋を継いだ万作・おたまから卸してもらっている品です。
いくら万作に、弟分だった北一への情が残っていても、女房のおたまからは疎んじられ、悪口を吹聴されていました。
いつ何時、クビを切られるかわかりません。

北一は、この話を好機と捉えます。
独り立ちをして千吉親分の<朱房の文庫>を継ぐこと決意。
先代の職人で一番の古株だった末三爺さんに文庫作りのいろはを習い、欅屋敷の若様と用人である青海新兵衛たちの協力を得て、注文された引き出物の文庫を仕上げます。

文庫は、万太郎とお夏の祝言でお披露目されるとあって、北一の心も弾みます。
ところが、そんなめでたい席に現れたのは、万太郎の亡き妻、お菊の生まれ変わりだと称する女性。
しかもその女性が連れてきた両親と一緒になって、万太郎に復縁を迫ったせいで、楽しいはずの席が一瞬で修羅場に。

お夏が気を失い、花嫁側の親族には引き取ってもらうことになり、万太郎側の親族と押しかけてきた3人の家族で話し合いが行われることになりました。

前世はお菊だったという女性の名前はお咲といい、歳は17でした。
お咲は、お菊しか知らないことを次々とぶつけられても、即座に答えることができました。
そして誰にも口外していない、お菊の実家の家神様にまつわる思い出話をお咲がしたことで、万太郎はお咲をお菊の生まれ変わりだと確信しました。

「うさんくさい話だね」「まったく気にくわない話だ」
翌日、北一から話しを聞いた冬木町のおかみさんは、ご立腹の様子。
その後、赤子の頃の万太郎には、おとしという乳母がいたことや、おとしに常吉という子供がいたことが判明しますが、おとしが謎の死を遂げていたこともわかります。

そして第2の怪死事件が発生すると物語は一気に加速。
この4カ月、あらゆる事態を見抜ぬいてきた、おかみさんの千里眼に驚かされ続けてきた北一。
果たして今回は、おかみさんの力を借りて、一連の不可解な出来事を解明することができるのでしょうか。

 

感想

「桜ほうさら」から数年後を描いた物語。

富勘長屋に住んでいた店子たちも顔を出すなど、遊び心もたっぷり。
笙之介の消息が描かれているのも、宮部ファンには興味深いものです。

新たな登場人物たちも魅力がいっぱいで、みなしごだった北一と、出自に謎の多い喜多次のキャラクターも良かったです。
兄ぃたちと違い、北一と女中のおみつが、おかみさん思いなところにほっとしました。

まだまだ明らかにされていない部分も多く、続編で2人のきたさんの活躍を待ちたいと思います。

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