湊かなえ「贖罪」あらすじ・感想!恐ろしい償いの連鎖が始まる

小説

今年の エドガー賞「ペーパーバックオリジナル部門」最終候補作に選ばれた湊かなえさんの「贖罪」。

日本人作家でエドガー賞にノミネートされたのは、桐野夏生さんや東野圭吾さんに続き3人目でした。

惜しくも受賞を逃しましたが、湊作品は海外でも高い評価を得ているようです。
「贖罪」は、章ごとに語り手が変わり、湊作品でよく見られる独白形式で進んでいきます。

 

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あらすじ

空気がきれいな田舎町の学校に小学4年生の足立エミリという女の子が、東京から転校してきました。
エミリの父親は大企業・足立製作所の創業者の孫で、今年この町に新設した工場の責任者でした。

裕福な家庭に育ったエミリは、この学校でもすぐに同級生の友達ができます。

8月14日の夕方、特に仲良くなった紗英(さえ)と真紀(まき)と晶子(あきこ)と由佳(ゆか)の4人と学校の校庭でバレーボールをして遊んでいるときでした。

作業服を着た見知らぬ中年男性が声をかけてきました。
プールの更衣室の換気扇の修理の手伝いをしてほしいと、言葉巧みにエミリだけを更衣室に連れて行きました。

他の4人は遊び続けていましたが、なかなか戻ってこないエミリを心配し、プールに様子を見に行きました。

そこで変わり果てた姿のエミリを発見した4人。
見張りに紗英を残して、晶子はエミリの家に、由佳は交番。真紀は先生を呼びに、3人は一斉に駆け出しました。

死体を目の前にして1人残された紗英。
死体の太ももに流れる血を見てうろたえますが、すぐにエミリの母親、麻子(あさこ)や、警察官が駆けつけてきました。

後日、事情調書を受けた4人は、犯人についてあやふやな証言しかできず、捜査に役立つことができませんでした。
ただし、今回の事件と関連性が疑われる出来事が2週間ほど前に起きていました。

それは、この町の5軒の家からフランス人形だけが盗まれるという事件で、この周辺に潜む変質者が、フランス人形を盗んだだけではもの足らず、本物の女の子を襲ったのではないか。

そんなことがまことしやかに囁かれるようになっていました。のどかな田舎町はしばらくの間、事件の話題でもちきりでしたが、時が経つにつれ風化していき、犯人が捕まらないまま3年が経ちました。

夫の仕事の都合で東京に戻ることになったエミリの母、麻子は最後にもう一度だけ事件の日のことを聞かせてほしいと中学1年生になっていた目撃者の4人を呼び出しました。

犯人の顔を思い出せない4人にいら立ちを隠せない麻子は、犯人が捕まらないのを4人のせいにしたあと、言い放ちました。

時効までに犯人を見つけてくること。もしくは私が納得できるような償いをする。どちらもできなければ、金と権力を使い4人に復讐すると。

「フランス人形」

事件から15年後の紗英。

紗英は麻子に手紙を書きます。

一流商社に勤める孝博(たかひろ)とお見合いをしました。孝博は小学校6年から3年間、紗英と同じ町に住んでいたらしく、紗英たちの間で流行っていたフランス人形がある家を訪ね、人形を見てまわる遊びについて行ったこともあるそうです。

紗英は結婚が決まったあと、孝博の父親と麻子の夫が、いとこ同士だと初めて知らされました。

そして時効が近づくなか行われた結婚式。
式に出席した麻子から、事件のことはもう忘れて幸せになるのよ、と言われ喜ぶ紗英。

結婚式を終えた翌々日、孝博の赴任先のスイスへと旅立ちますが、紗也が貴弘を殺したのは、スイスに着いて2週間が経った頃でした。
そして貴弘を殺した直後、紗也は麻子宛に手紙を書きます。

「PTA臨時総会」

事件から15年後の真紀。

小学校教師になっていた真紀。
エミリ殺害事件の時効が迫るなか、ニュースで紗英が夫を殺したことを知りました。

そして麻子から真紀に送られてきた手紙は、何故か紗也が麻子宛に書いた手紙のコピーでした。
そのあと、小学校のプールである事件に巻き込まれた真紀は、PTA臨時総会が開かれ、その事件について説明することになりました。

それは7月5日のこと。

真紀の担当している4年1組と田辺教諭の担当している2組の合同で行われた水泳の授業中、侵入して来た暴漢に田辺がプールに突き落とされました。

今度はナイフで子供たちを襲おうとしましたが、真紀が暴漢の足に飛びつくと、暴漢は転んだ拍子にナイフが自分の足に刺さり、そのままプールに転げ落ちていきました。

小学校のプールで4年生の生徒たちが侵入して来た男に襲われたこの一件は、真紀が経験した15年前の事件と実に類似した出来事でした。

真紀はその後、子供を助けたことで英雄扱いされましたが、プールに落ちた暴漢の顔を蹴り上げ命を奪ったのはやり過ぎだと、のちに糾弾される立場になり、PTA臨時総会を開くことになりました。

この事件の説明を終えたあと、真紀の話は続きます。
この中にいる麻子だけに向けて。

「くまの兄妹」

事件から15年後の晶子。

エミリ殺人事件の時効成立まであと5日と迫るなか、病院に入院していた晶子。
カウンセリングの先生から15年前の事件について尋ねられ答えていきます。

子供の頃は、兄ともども「くま」と、からかわれていた晶子。
ガッチリ体型で女の子っぽい格好をしても似合いませんでしたが、エミリだけは褒めてくれました。

そんなエミリともっと仲良くなりたいと思った矢先に、エミリが学校で殺されてしまいました。
「身の丈以上のものを求めようとすれば、不幸になるだけ」。
これは、晶子が物心ついた頃から、祖父によく聞かされていた話でした。

くまの分際でエミリと仲良くなりたいと思ったからエミリは殺された、自分と関わった人は不幸になると思うようになり、引きこもりがちになります。

そんな時に晶子を励まし支えてくれたのが、兄の幸司(こうじ)でした。
その兄が事件から14年後に、春花(はるか)という子連れの彼女を連れてきました。

春花はヤクザの子供を産み借金まで背負わされてこの町に逃げ帰って来たと、まことしやかに噂されていた女性でした。
両親の反対もありましたが、晶子が兄の味方になり、めでたく結婚に至ると、次第に両親も春花の連れ子の少女、若葉(わかば)を可愛がるようになっていきました。

その頃町では、紗也と真紀の事件のニュースで「2人ともあの事件のとき、殺された子と一緒にいた子供たちじゃないのか、犯人はまだ捕まっていないのか、この町は呪われている」などと、大騒ぎになっていました。

そして、晶子には真紀と同様に麻子からの手紙が届いていましたが、晶子は封を開けることはありませんでした。
そんな事件は関係ないとばかりに、幸せを迎えたように見えた晶子の家族。

しかし、前の男のDVの後遺症が残る春花が選んだ残酷な手段がきっかけとなり、晶子が兄を殺すという最悪な結果を招いてしまいました。

晶子は話し終えた時、カウンセリングの先生と思っていた相手が、麻子に似ていることに気付きました。

「とつきとおか」

事件から15年後の由佳。

近日中に出産を控えている由佳は、両親や姉に生まれてくる子供の父親は、不倫相手の職場の上司と嘘をついていました。
本当の父親は姉の夫でした。

そして、エミリ殺害事件の時効直前、事件のことなど考えたくなかった由佳に、麻子から手紙が届きました。

紗也が麻子に送った手紙のコピーと真紀の告白が載せられたブログのコピーも一緒に届き、それらを読んだ由佳は15年前の殺人事件の手がかりになりそうなことを思い出しました。

警察官である姉の夫に相談しようとアパートに呼び出しますが、負の連鎖は続きます。間もなくして、姉の夫を階段から突き落として殺してしまいますが、警察には姉の夫が足を踏み外して落ちてしまったと嘘の証言をします。

これで、エミリ殺害事件の目撃者4人は全員とも人を殺してしまったことになりました。

その後、病院に運ばれた由佳は、植え込みの陰から犯行の現場を目撃していた麻子と再会します。

このあと、麻子の章「償い」で、麻子の若き頃の思い出が綴られると、4人から得た情報をもとに愛娘を殺した犯人が明かされ、物語は 「終章」を迎えます。

感想

麻子の章「償い」で麻子が犯人に告げた一言は強烈で、著者お得意の後味の悪さを感じましたが、エピローグ「終章」で少しだけ救われました。

殺害された友人を発見した10歳の少女たちが、心に深い傷が残ることは容易に想像がつきますが、そのうえ償い意識を植え付けられたら、たまったものではないですね。
脅迫観念が、悲劇の連鎖を生み出す恐ろしい物語でした。

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