東野圭吾「聖女の救済」痕跡が残らない殺害方法とは!あらすじ・感想

小説

2008年10月に単行本として「ガリレオの苦悩」と同時刊行された「聖女の救済」はガリレオシリーズ第4作目です。

今回もネタバレし過ぎないようにあらすじを書いてみました。
シリーズ長編第2作目となる本作は、前作「容疑者Xの献身」に勝るとも劣らない傑作だと思います。

 

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あらすじ

金曜日の夜、IT企業社長・真柴義孝( ましば・よしたか )と妻の綾音(あやね)は、義孝の会社の顧問弁護士、猪飼達彦(いかい・たつひこ)とその妻、由紀子を自宅に招きホームパーティを開いていました。

楽しい時間を過ごす猪飼夫妻。2人とは反対に綾音は心に傷を受けていました。
結婚してから一年経っても子供に恵まれなかった綾音は、パーティが開かれる前に義孝から離婚を突き付けられていたからです。

早く子供が欲しい義孝は、結婚して一年以内に子供ができなければ夫婦関係は解消する、という約束を実行させました。
不妊の原因が義孝に問題がないことは証明されていて、子供を持てる見込みのない相手との結婚生活には意味がないというのが義孝の結婚観でした。

綾音は別れを拒みましたが、義孝の気持ちは変わりません。
そんな義孝に綾音は心の中で呼びかけました。
私はあなたを心の底から愛しています。それだけに今のあなたの言葉は私の心を殺しました。

だからあなたも死んでください —————。

午後11時を過ぎ、会はお開きとなりました。
綾音は父の具合が良くないので、明日の土曜日に実家のある札幌に帰省する、とパーティに同席していた 若山宏美(わかやま・ひろみ)に話します。
宏美はパッチワーク作家をしている綾音の愛弟子です。

翌朝、いつ帰って来れるかわからない綾音は、家に保管している資料が心配だから、と家の鍵を宏美に預けます。
妻が実家に帰ったその日の夜、宏美を真柴家に招き入れる義孝。
2人分のコーヒーを入れたあと、綾音と離婚が決まったことを宏美に報告します。

そのまま一夜を過ごした翌朝。
宏美がキッチンで入れたコーヒーを2人で飲んだあと、宏美は仕事に向かいます。

夜の7時が過ぎ、仕事が終わると、義孝に電話をかけますが繋がりません。
仕方なく真柴家まで来た宏美は、綾音から預かっていた鍵を使い家に上がると、リビングで倒れている義孝を発見します。
義孝の近くにはコーヒーカップが転がっており、コーヒーがこぼれていました。

通報を受け現場に臨場した警視庁捜査一課の草薙俊平(くさなぎ・しゅんぺい)は、後輩の岸谷から被害者の死因は毒物の疑いがあり、殺された可能性があると報告を受けます。
不審者が侵入した形跡はないということでした。

死体の第一発見者となった宏美は、立っているのも辛いくらいの状態ですが、警察の事情聴取を受けます。
不倫の事実を隠すため、死体を発見するまでこの家には来ていなかったと、嘘の証言をします。

翌朝、帰京して来た被害者の妻、綾音を車で迎えに行く草薙と女性刑事の内海薫(うつみ・かおる)。
家の様子を見に行きたいという綾音の要望に応え、真柴邸に向かいます。
現場に到着すると草薙の上司、間宮係長の姿がありました。

鑑識の結果、被害者の飲んでいたコーヒーから毒物の亜ヒ酸が検出されたと、間宮は草薙たちに話します。
さらにドリッパーにセットされたフィルターからも毒物の混入したコーヒーの粉が見つかったということでした。

その頃、綾音は、一階の庭と、二階のベランダに咲く花に水をあげるため、水道の水をバケツに入れます。
じょうろで汲んだ水を花に撒き終ると、呼ばれていた宏美が真柴邸にやって来ました。

綾音は宏美の姿を見た途端、彼女に抱きつき泣きだします。
刑事たちは綾音が泣き止むと、宏美を別の場所に連れて行き、昨日に続き話を伺います。

この日は、刑事たちの追及に被害者と3カ月前から特別な関係にあったことを告白した宏美。
土曜日の夜、被害者宅に泊まっていったことを認めます。
その日の夜は義孝がコーヒーを入れ、日曜の朝は宏美がコーヒーを入れたと話し、その夜にもう一度、この家に来た時に義孝が死んでいたと証言します。

草薙と薫が宏美から話を訊き終わる頃、間宮たちによる綾音からの事情聴取も終わっていました。
草薙たちは金曜日に真柴邸のパーティに参加していた義孝の会社の顧問弁護士、猪飼達彦とその妻からもアリバイを訊きに行きました。

そしてその日の夜、目黒署で開かれた捜査会議。
自殺ではなく他殺の可能性が高いとの事でしたが、毒の混入経路が不明のままでした。

翌日、綾音のアリバイを全て調べたところ、ほぼ彼女の証言通りで、草薙は綾音が犯人でないと確信します。
草薙が疑っている人物は、唯一毒を入れるチャンスがあった宏美でした。

反対に綾音を疑っている薫と意見の対立が生まれます。
不審死した夫の妻にしては、不自然に感じていた薫は、天才物理学者の湯川学(ゆかわ・まなぶ)に捜査の協力を求めます。

事件の詳細を聞いた湯川は、綾音が犯人の可能性は低いと草薙と同じ見解を示しました。
もし綾音が毒を仕込んでいたとしたら、土曜日の夜と日曜日の朝にも宏美が被害者と一緒にコーヒーを飲んだ時に、なぜ何も起きなかったのか。
それが最大の謎になると言います。

その時、ケトルからも毒が検出された、と薫に連絡が来ます。
もし、草薙のいう通り宏美が犯人ならば、警察が来る前にケトルを洗うはずだと薫が述べると、それには湯川も同意します。

ケトルだけではなく、コーヒーを入れるとき使用したコーヒーの粉やフィルターなども処分し、さらに毒物を入れた袋か何かを死体の近くに置くなどして、自殺に見せかける偽装をするはずだ、と。

そして、綾音を犯人とするならば、「北海道にいる人間が東京にいる人間を毒殺することが可能かどうか」。
科学者として知的探求心をくすぐられた湯川は、この謎に取り組んでいきます。

一方、綾音は宏美を問い詰め、義孝との不倫を認めさせていました。
謝ろうとする宏美に、彼の気持ちを繋ぎ止めておけなかった自分が悪いと言い、宏美を責めることはしませんでした。

後日、綾音は草薙にも話します。
義孝と宏美の関係は草薙もご存じだったのでしょうと。

さらに綾音は、健康意識の高かった義孝は水道の水を口にすることはなく、料理にも浄水器を通した水を使い、コーヒーを入れる際は必ずペットボトルの水だった、と新たな情報を提供します。

それが本当ならば、犯人は事前にペットボトルに毒を仕掛ければいいわけで、容疑者は宏美だけとは限らなくなります。
そして、宏美を疑う草薙に綾音はこう告げます。

ペットボトルに毒を混ぜるなら、自分にも可能だったと。

しかし真柴家の冷蔵庫には、ほぼ満タンのペットボトルが一本入っていましたが、今のところ毒は検出されていません。
現在は、真柴家にあった空ペットボトルから採取した残留物を科捜研が分析を進めているところでした。

宏美にもペットボトルの水を使ったか訊いてみると、不経済であるとの理由から、義孝には内緒にして水道水を使ってもいい、と綾音から教わっていたと言います。
だから日曜の朝に入れたコーヒーには水道水を使ったとのこと。

その話が本当なら、実際にミネラルウォーターを使っていたのは、被害者だけだったことになります。
そして、空のペットボトルから毒物が検出されれば、綾音が事前に仕掛けた可能性も浮上してきます。

しかし、土曜日の夜に義孝が毒物の混入されていたペットボトルの水を使いコーヒーを飲んでいたら、その時に異変が起きていたはずで、事前に仕掛けていた可能性はないと綾音の無実を信じます。

そんな中、宏美が義孝の子供を妊娠していることを言い当てた綾音。
だから、宏美がお腹の子の父親を殺すはずがない、義孝を殺す動機があるのは、むしろこの私です、と強く訴えました。

その後、草薙は猪飼のもとを再び訪れます。
猪飼は綾音のことを「彼女は主婦として完璧だった。外での仕事はすべてやめ、家事に専念していました。真柴が家にいる時は、リビングルームのソファに座り、パッチワークをしながら、いつでも夫の世話ができるように待機していたんです」と、献身ぶりを褒めます。

さらに義孝が、綾音と出会う前に付き合っていた女性の存在を話します。
「女性は子供を産む機械」としか見ていない義孝を恨んでいた女性がいてもおかしくありません。

日曜の朝に宏美が出て行ったあと、義孝が前の彼女を真柴家に招き、その彼女がケトルに毒物を放り込んだ可能性を草薙は考えます。

その女性を探すことにした草薙のもとに、薫が真柴家でキッチンの再検証をするという話が入ってきました。
ベランダの花に水をやる約束を綾音と交わし真柴家に行くと、湯川が流し台の下を覗いていました。

草薙は湯川が捜査に協力していることを知りません。
湯川に説明を求めると、こう答えました。

「離れた場所にいて、ある特定の人物が口にする飲み物に毒物を混入させることは可能か。しかも、あらかじめ施された仕掛けについては、その痕跡が残ってはならない」という難問を薫から出された、と。

「これほどの難問は物理学の世界でもなかなかない」とも付け加えました。
水道や浄水器、フィルターに異常がないことは鑑識でも確認されていましたが、湯川の目でも仕掛けを施した痕跡は見つからず、科捜研からの報告でペットボトルからも何も検出されなかったことがわかりました。

後日、湯川が行った実験で、事前にケトルに毒物を仕掛けておくことも実行不可能だと証明され、日曜日に真柴家に侵入した何者かがケトルに毒を入れたという可能性が強くなってきました。

そんな中、「僕はミスを犯したかもしれない。そのことを確認したい」と、湯川はもう一度真柴邸に行き、浄水器のフィルターとホースを鑑識に持ち帰らせます。

そこで湯川は、草薙に言います。

被害者がペットボトルの水しか使わないという綾音の証言によって、彼女自身のアリバイが成立しなくなった。
そのことが綾音の仕掛けたトラップだと。

しかし、鑑識の結果がでると、結局フィルターやホースから毒物は見つかりませんでした。
フィルターやホースには、ほこりなどの長年の汚れが付着したままであり、ここしばらくは流し台の下が触られた痕跡さえもなかったとのこと。
さらに、蛇口側から浄水器に毒物を仕込むことも、不可能だとわかりました。

一方、義孝の元恋人による犯行の可能性も視野に入れ捜査していた草薙。
ついに元恋人を見つけますが、その女性は2年ほど前に自殺しており、草薙の説は消滅してしまいました。

気落ちする草薙が目黒署に戻った頃、湯川から呼ばれた薫が会議室を出て、湯川のもとへ向かいます。
湯川は、調査してもらいたいことがある、と折り畳んだ紙を薫の前に出すと、この方程式にあるのは、ただ1つの解と語ります。

ただし、それは「虚数解」で、「理論的には考えられるが、現実的にはありえない」ものだと。
さらに「北海道にいる綾音が東京にいる義孝に毒を飲ませる方法が一つだけある。だけどそれを実行できる可能性は限りなくゼロに近い」とも付け加えます。

今はまだ、客観的な調査を求めるため、トリックは明かせないとのこと。
それでも薫は湯川が見つけた、たった1つの答えを知りたい、と湯川から差し出された紙を受け取ります。

そして、薫が持ってきた調査の結果を見た湯川。
一つの答えを導き出します。

「論理的に考えて、これ以外の方法はあり得ない。驚くべき執念、おそるべき意志の強さといわざるを得ない」と、湯川に言わしめる程、常人では不可能なトリックが暴かれていきます。

感想

今回、あらすじを書くにあたって、久しぶりに再読した「聖女の救済」ですが、やっぱり面白い。
容疑者が自らの動機を警察に語るという離れ業にも驚かされます。
理論的には考えられるが、現実的にはありえない、というトリックにも納得です。
本作の容疑者が女性だったことが、このトリックを生み出し、最強の敵が生まれたのではないのでしょうか。

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