湊かなえ「落日」あらすじ・感想!知ることは救いになる

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当ブログでは多くの湊かなえ作品を紹介させて頂いております。
なかなか紹介しきれませんが、最新書き下ろし長編「落日」が先日発売されました。
今回もネタバレ無しであらすじを紹介しています。

 

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あらすじ

N県N市笹塚町の、とあるアパートの一室。
幼稚園に通う長谷部香(はせべ・かおり)は、学習ドリルの出来が悪いたびに、母親からベランダに閉め出されていました。
母の厳しい教育は、雪がちらつく寒い夜でも手加減がありません。
ベランダに放り出され、暗闇の中を震えながら耐える5歳の香。

隣室との間にある仕切り板を見つめていると、白い小さい手が板の下からのぞいていました。
最近隣に越してきた家族の子供なのか。
この子も親を怒らし、ベランダに出されたのだろう、と香は推測します。
顔は見えませんが、ベランダ床を指先でトントンと叩き、合図を送りあった2人。
仕切り板の下に絵を描いたり、指先が触れ合うなど、お互いに励まし合います。

それから10日後。
隣りの子に会いたい香は、わざと間違えた回答を連発し、ベランダに出されることに成功。
この間のように、仕切り板の向こうに小さな白い手を見つけますが、その手の甲には大きな水ぶくれができていました。

翌日、母と買い物途中で、隣りに住む母娘とばったり会い、思わぬところで初対面が叶います。
紹介された女の子は、香りと同い年の立石沙良(たていし・さら)。
傷のあった手の甲は確認できませんでしたが、テレビに出てくるようなかわいらしい女の子でした。

沙良が保育所に通っていたので、週末に遊びに行くつもりでしたが、突然、香の父親が笹浜海岸で自殺。
優しかった父は妻の教育方針に反対でしたが、恐妻家の妻に頭が上がらない人でもありました。

沙良に お別れの挨拶も出来ずに、母の実家のある「温泉町」に引越します。
父の自殺の原因は母から厳しい言葉をぶつけられていたのが、重圧になったのではないか、と推測。
罪悪感を抱えた母は心の病にかかり、香は父方の祖父母に引き取られていきました。

こうしてやってきた横浜の家では、大きなテレビで、父が好きだったという映画を鑑賞。
父が最後に見た映画もわかります。
もしこの作品が30年経っても続編が作られていることを知ってさえいれば、父は人生を諦めずに家に帰って来たかもしれない、と香は信じます。
映画にはそれほどの力があると。

そして香が「笹塚町」を離れてから13年後のクリスマスイブの夜。
高校3年生になっていた立石沙良が、3つ年上の兄・立石力輝斗(たていし・りきと)に刃物で殺される事件が発生。
力輝斗は妹を殺害後、沙良の寝室に火をつけ、一階で就寝中の両親を一酸化炭素中毒により死亡させます。

それから15年後 ———。

「笹塚町」で生まれ育った甲斐真尋(かい・まひろ)は、東京の大学に進学しますが、脚本家を夢見て2年で中退。
大畠凛子(おおはた・りんこ)のアシスタントを始めた彼女は、2時間ドラマ「茜色のメロディー」で脚本家デビューを果たします。
ペンネームは甲斐千尋。
尊敬する姉、甲斐千穂(かい・ちほ)から1字取って、真尋を千尋にしました。

しかしそのあとは、鳴かず飛ばずの状態が続き、30歳まであとわずか。
そんな無名の脚本家に連絡をよこしてきたのは、長谷部香でした。
自身が初監督・脚本を務めた「1時間前」が、世界有数の国際映画祭で高い評価を受けるなど、今最も注目を集めている映画監督です。

次回作は、15年前に「笹塚町」で起きた「一家殺害事件」を取り上げるとのこと。
そのため、「笹塚町」出身の人間を探していたところ、この町で撮影された「茜色のメロディー」を見つけます。
香がその脚本家を幼稚園の同級生だった甲斐千穂と勘違いし、コンタクトをとった女性が、千穂の妹・真尋でした。
真尋によれば、千穂は現在、ピアニストとして世界中を飛び回っているとのこと。

事件が起きたのは15年前で、すでに死刑判決が下されています。
当時、真尋は中学2年生。
メディアから流れていた情報は、家族を殺した立石力輝斗が引きこもりだったということ。
そして、立石沙良に虚言壁があったということで、誹謗中傷は、妹の沙良にも向けられていました。

香が知りたいのは事件の真相ではありません。
幼い頃、仕切り板の向こうで心の支えとなってくれた女の子が、殺されたうえ、虚言壁があったとメディアに仕立てられたままになっているのが、香には許せませんでした。

立石沙良の本当の姿。
それを世間に伝えたいと言います。
正式に香から協力を求められた真尋でしたが、結局意見が合わず、一旦は物別れに終わります。
後日、真尋は親戚の法事のために「笹塚町」に帰省。
ボストンから帰国していた従兄の正隆(まさたか)と再会します。

彼は被害者の1人、立石沙良と笹塚高校の同級生でした。
さらに長谷部香とは幼稚園から幼なじみだったとのこと。
あの事件を映画化したい理由がいまいち掴めないという真尋に正隆が呟きます。
「香ちゃんは、あのことを知ったんだな」と。

その後、正隆は笹高の同級生で、沙良の友人だった橘イツカという女性を真尋に紹介。
イツカの話では、沙良にはやはり虚言壁があり、彼女もひどい目に遭わされていました。
中には彼女の嘘で、人生が狂ってしまった人までいたとのこと。

さらに数々の嘘エピソードを聞かされた真尋。
東京に戻り、長谷部香に報告します。
すると望んでいたものと違ったせいで、香はショックを受けた様子を見せます。
こうして沙良の人物像が浮かび上がる中、それでも香はこの事件を撮りたいのだろうか。

香は答えます。
知ることは救いになる、と。

そのためには、虚言壁が兄の力輝斗に殺された原因になったのか、そこを突き止めなければなりません。
そして、虐待がきっかけとなり虚言壁になったのか。
沙良がベランダに出される理由はなんだったのか。
何より、ベランダの仕切り板の向こうにいたのは、本当に沙良だったのか。

真尋が小学4・5年生の頃を思い出します。
とある公園で、力輝斗らしき男の子を目撃していたことを。
猫に懐かれたその男子はネコ将軍と呼ばれ、ガリガリの身体で普通の雰囲気ではなかったことを覚えています。
虐待を受けていたのが、力輝斗だったとしても不思議ではないと真尋は言います。

仕切り板の向こうで心の支えになってくれたのは、沙良だったのか。力輝斗だったのか。
力輝斗の刑はまだ執行されていません。
力輝斗との面会が可能ならば、香は彼に訊いてみればいい。

真尋はその光景を思い描きます。

2人の間には透明の仕切板。
今度はお互いに目を合わせ、手を伸ばすことが出来る。

物語はここから始まるはずだ、と。

感想

主軸の物語以外にも親子や姉妹の結びつきに感動。
メディアのあり方に苦言を呈したり、精神鑑定の問題点に切り込んだことも印象的でした。
ラストに語られる真相に読後感は良かったです。

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