辻村 深月「ツナグ 想い人の心得」あらすじ・感想!心潤す5つの物語

小説

先日発売された辻村 深月さんの最新作「ツナグ 想い人の心得」を読みました。
「ツナグ」の続編である今作も主人公の歩美が使者の役目を果たしていく連作短編集です。
続編からでも十分楽しめますが、なかには前作を知っておいたほうが楽しめる場面もありますので、まだ未読の方は前作を読んでから本作を読むことをお勧めします。
それでは、ネタバレ無しのあらすじを紹介します。

 

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あらすじ

 

「プロポーズの心得」

俳優として活躍する紙谷ゆずる。
女優の美砂(みさ)と知り合ったのは、共に出演した2年前の舞台。
年齢も同じ23歳の2人は、芝居以外にも映画や音楽などの話で、交友を深めていきました。
俳優業では、ゆずるが未熟ながらも努力を重ねていき、戦隊ヒーローものの役を獲得。

一方の美砂は、学生時代から演劇を学び、ゆずるよりも熟練した演技を見せますが、声がかかるのは「ちょい役」だけで、レギュラーの獲得には至っていません。
そのうち、ゆずるが美砂のことを好きになり告白しますが、今はお互いの仕事を優先すべき、と彼女は断ります。
それでも食い下がるゆずるに対して「私は誰かと幸せになったりするようなことはしちゃいけないの」と、美砂は返します。

意味がわからず、きょとんとするゆずるに、美砂はしまったとばかりに、言葉を付け足してごまかしていました。
そんなある日、美砂は高校時代に親友を事故で亡くしてから、人が変わった、という話を耳に入れたゆずるは、数年前に役者仲間から教えてもらった話を思い出します。
それは「死者との再会を叶えてくれる人がいる」という、都市伝説。

当時ゆずるが、その話を美砂にも聞かせたところ、呆れるだけで、信じていない様子でした。
ゆずるは、美砂と亡き親友を会わせてやりたい一心で、使者に繋がる電話番号を入手。
電話に出たのは、ゆずると同い年くらいと思われる男性で、待ち合わせ場所に指定されたのは、東京都日比谷にある公園。

ところが現われたのは、小学校低学年くらいの女の子。
年相応の可愛らしい服装を着ているわりに大人びた言葉遣いで、堂々とした振る舞いを見せます。
「死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口。私が使者(つなぐ)だよ」と、言う少女は、子供向けの番組に出ているゆずるには、一切興味を示しません。
少しプライドが傷つきながらも彼女の後をついて、ショッピングビルの地下にある喫茶店に移動。

そこで少女は、使者のルールについて説明をはじめます。

まず、使者(ツナグ)と呼ばれる人物が、依頼者から死者の誰に会いたいか話を聞き、そして対象となった死者に交渉。
死者に会えるのは1人の依頼人だけで、依頼人も死者も、お互い会えるのは、一度だけ。
しかし、死者からは会いたい人間を指名できず、向こうから指名されるのを待つのみ。
よって会いたくなければ、死者は断ることが出来る。
そして面会できるのは一晩だけで、一番面会時間を長くできるのは満月の夜。
実体を持つことが許された死者は、生きていた時と変わらない姿で現れる。
朝日が昇ってくると、死者は、その姿を消してしまう。

一通りの説明を聞き終わったゆずるは、美砂のために、親友と会う機会を作ってあげたいことを使者の少女に伝えますが、代理で依頼することは出来ない、と断られてしまいます。
よほどの縁がない限り、繋がらないという使者への電話に、なぜこんな依頼の仕方で電話が繋がったのか、使者の少女も不思議に感じます。

ゆずるもそんな大切な1回を自分が奪うことはできない、と一旦諦めますが、この先、使者と再び繋がれるという保証はありません。
このまま別れてしまうのも惜しい気がしたゆずるは、亡くなった父親と会わせてもらいたい、と依頼内容を変更。
やれやれ、といった感じの少女に、父の情報を伝えます。

ゆずるも一応依頼をしたものの、どこか冷めた自分がいるのも確かでした。
母親が父と縁を切ったのは、ゆずるが2歳くらいの頃で、父の顔は憶えていません。
人から聞いた話では、父は酒浸りで、浮気性。
ギャンブルで借金を作り、母に手を出すこともあったとか。
優しい母は、ゆずるの中に夫の血が流れていても、「ゆずるがいてくれて、よかった」と、いつも可愛がっていました。

母子家庭で育ったゆずるは、母の苦労を見てきただけあり、父親を反面教師にして生きます。
そんな父が心不全で死んだ、と連絡があったのは3年前の冬。
孤独死でした。
噂では母と別れた後の父は再婚せずに、力仕事で稼いだお金で生活を送っていたとか。
葬儀に出た母がもらってきた父の形見は、釣りのルアーだけで、母は作り笑顔を見せるものの、その頬には涙の跡が残っていました。

ゆずるは少し疑問に感じます。
これまで、父に会いたいと思うことはありませんでしたが、父は自分に会いたいと思ったことはなかったのだろうか、と。
ゆずるは、その時に思いました。
父に会って一発殴ってやりたいと。

そしてその翌日、面会の了承が取れた、と少女から電話がきました。
指定された日は、面会時間を一番長くできる満月の夜。
場所は品川にある高級ホテル。
使者の少女と乗り込んだエレベーターは12階に到着。
ゆずるは、ここで少女と別れ、1人で父が待つ部屋へと向かいます。
これまで一度も会ったことのない父親を見て、果たして本物かどうかわかるのだろうか。
不安を感じながらドアを開けると、父らしき人物は部屋の奥にいました。

ガリガリに痩せた体に顔色もよくありません。
いきなり父は、ひざまずき床に両手をつけて泣きながら「すいません、すいません」、と謝り続けます。
緊張を和らげるためにアルコールの力を借りていたのか、部屋の中には、酒の匂いが漂っていました。

このあと、最初で最後の会話を交わす父子。

嫌われるかもしれないけど、ゆずるに話したいことがある、という美砂。

そして、使者を名乗る謎の少女の正体が明かされ、大人びた彼女にも子供らしい一面が垣間見えます。

 

「歴史研究の心得」

渋谷歩美(しぶや・あゆみ)は、子供の頃に両親を亡くしたあと、叔父の家族たちと祖母の家で暮らしてきた男性です。
大学生の頃に祖母を亡くした歩美は、大学を卒業後におもちゃ会社「つみきの森」に入社して、その家を出ました。 
「つみきの森」に勤めて2年目になる歩美は、会社の仕事と祖母から引き継いだ使者(ツナグ)の役目を両立する日々を送っていました。

使者の存在は、著名人や権力者などには知れ渡っている話で、依頼が殺到してもおかしくありませんが、歩美の携帯まで辿りついてくる人はごくわずか。
よほどの縁がない限り、使者に辿りつくことが出来ない、と祖母が言っていたことを歩美は思い出します。
今回、その歩美の電話に繋がった人物は、元教員だったという鮫川幸平(さめかわ・こうへい)。

すでに年齢は80を超えている鮫川は、これまでの依頼人と違い、使者の力に少しの疑いも持っていません。
地元のかつての英雄、上川岳満(うえかわ・がくまん)の研究者でもある鮫川は、その上川に会いたい、と使者に依頼してきました。
ではなぜ時代も言葉も違う相手に会いたいのか。
上川には2つの謎がある、と鮫川は言います。

上川が生きた時代は400年以上前で、農民も戦に駆り出されるのは当たり前のことでした。
しかし上川は位の低い領主でありながら、自分の村からは、1人も戦に出さなかったとされています。
今でこそ英断とされますが、当時では裏切り者扱いされていたはずでしたが、なぜそんな決断が出来たのか。

もうひとつの謎は、上川が残した和歌。
その恋の歌は、一体誰に思いを募らせていたのか、はっきりとは解明されていませんでした。
鮫川は、村や民を思ったに違いないと信じている様子。
上川岳満を呼び出した歩美は、現代語の通じない上川に、鮫川から受け取った手紙を渡し、こちらの意思を伝えます。
どうにか交渉は成功し、鮫川は敬愛する歴史上の人物との面会を果たします

 

「母の心得」

この日、渋谷歩美は品川にあるホテルのラウンジで、依頼人から話を聞いていました。
依頼人は重田彰一(しげた・しょういち)と、その妻の実里(みさと)。
死者と会えるのは1人だけ、というルールはすでに知っており、彰一は妻の実里が会えればいいと考えていました。
会いたい相手は、わずか6歳という若さでこの世を去った娘の重田芽生(しげた・めい)。

5年前、家族3人で堤防釣りを楽しんでいたところ、少し目を離したすきに芽生の姿が見えなくなり、遺体となって発見されるまで、海に落ちていたことに気づいていなかった、と夫妻は話します。
そして夫妻が使者の存在を知ったのは、芽生を失ってすぐの頃。
この5年の間、依頼をためらってきたのは、自分たちの不注意で芽生を死なせておいて、彼女に会う資格があるのか、と悩み苦しんできたからでした。
しかし、こうして依頼しに来たということは、2人に決心させる何かがあったのかもしれません。

夫妻がホテルから帰ったあと、この日の歩美はもう1人の依頼人、74歳の小笠原時子(おがさわら・ときこ)と会い、話を聞きます。
彼女が会いたい死者は、20年以上前に亡くした娘の瑛子(えいこ)。
瑛子は大学時代、ドイツに留学。
5年ほど経った頃、瑛子は現地で知りあったドイツ人のカールと結婚したい、と両親に報告するも、当時はまだ国際結婚は珍しく、反対を受けた瑛子は結婚を断念。

その後、ドイツで病気が見つかった瑛子は治療のために帰国。
瑛子の闘病生活をサポートするため、日本に来てくれたカール。
それを見た両親が心を打たれ、結婚を承諾。
しかしその9カ月後、26歳という若さで瑛子は息を引き取ることに。
その後、両親はカールに誘われ、瑛子が暮らしたドイツ旅行に行き、瑛子の友人たちから歓迎を受けます。

こうして文化や考え方の違いを学ぶことが出来たのは、娘の友人たちに会えたおかげだと話す時子。
そして娘に会ってお礼を言いたい、と深々と頭を下げてお願いします。
歩美はこの依頼も引き受け、この日、2人の死者から面会の承諾を得ることに成功します。

丈夫に産んであげられなかった、と責任を感じていた母と、子供を事故から守れなかった責任を背負い続ける夫婦。
満月を迎えた面会当日。
2人の母親が亡き娘との涙の再会を果たします。

 

「一人娘の心得」

この日の渋谷歩美は、勤務先である「つみきの森」がおもちゃの制作を依頼している「鶏野工房」に来ていました。
軽井沢に構える「鶏野工房」は、大将と奥さん、その娘の奈緒(なお)と家族経営の小さな工房です。

インテリアデザイナーだった歩美の父親が生前付き合いのあった工房だったため、大将夫妻はいつも歩美に優しく接してくれます。
工房には、今でも父が手掛けた椅子が置いてあり、歩美はここに来るたび、間接的に父に会えるような気がして、幸せな気分になれます。

新製品の発売を前に、今後の打ち合わせとお礼を兼ねての訪問でしたが、腕の良い職人と評判の大将が不調な様子。
歩美の会社が発注した商品ではありませんが、木で作った犬のおもちゃに不満げな声をあげていました。

そんな大将は、制作もしてみたいと言っていた歩美のことを、才能がある、センスがいい、と褒めてくれます。
よかったら基本を教えてやる、と大将から言われた歩美は喜びが隠せません。
このあと打ち合わせを終え、夕食をごちそうになってから、帰路に就きました。

それから2週間後  ———

大将が亡くなったと歩美のもとに連絡がきます。
翌日、弔問に訪れた歩美は、泣き崩れる大将の奥さん、気丈にも涙を堪える一人娘の奈緒を見て、胸が締め付けられる思いでした。
それほど深刻な状態でなかったにしろ、大将に心臓の持病があったことを、どうして今まで気づけなかったのか、と歩美は自分に憤りを感じます。

そして歩美は大将が亡くなったあとの「鶏野工房」を心配でなりません。
この木工房は、大将の腕の良さを認められて仕事を依頼されてきたからです。
父である大将の背中を見て育った娘の奈緒は、以前から大将の技術を受け継ぎたいと希望していましたが、大将は奈緒の弟子入りを認めませんでした。
まずは奈緒に事務の仕事をさせて、そこから木工の厳しさを知るように命じました。

再度、奈緒が大将の後を継ぎたいと申し込んだところ、考えておくと言われたのが、大将が亡くなる少し前のこと。
一緒に「鶏野工房」が発注している木を見に行くことになっていましたが、それも叶わなくなりました。
奈緒は自分より3つ年下の歩美に相談します。
「父から、何も聞いていないでしょうか」と。

しかし大将は自身の病気のことも奈緒のことも、歩美に話していません。
家族のように、迎え入れられていたと思っていた歩美は、寂しい思いに駆られました。
そして、父の気持ちがわからないまま、工房は閉めなければならない、と奈緒から告げられた歩美は、次の言葉を喉まで出しかけます。

「会ってみませんか」と。

しかし奈緒は使者(ツナグ)の依頼人ではありません。
唐突にそんなことを言い出しても、信じてもらえるかどうかもわかりません。
奈緒と別れたあと、歩美は祖母を亡くした時のことを思い出しますが、祖母に対する心残りなど、少しもありません。
突然の別れが来ても悔いが残らないように、祖母と暮らしてきたからです。

しかし奈緒は違います。
聞きたいこと、話したいことが残されたまま、父を亡くしています。
歩美は覚悟を決めます。
奈緒が今でも父の気持ちを知りたがっているのなら、自分が使者であることを明かしてしまおうと。
たとえ、元の関係に戻れなくなっても。

 

「想い人の心得」

桜の開花が近づく頃、歩美の携帯に依頼の電話をかけてきたのは、85歳の蜂谷茂(はちや・しげる)。
歩美が祖母から聞いていた話では、蜂谷が初めて使者に依頼をしてきたのは、彼がまだ40代の時でした。
最初の頃は5年ごとにきていた依頼も、蜂谷が70歳を過ぎてからは、3年に1度になりました。

しかも決まってこの季節。

祖母が知る限り、何度断られても、1人の死者への面会を依頼し続ける人物は彼だけでした。
歩美が依頼内容を聞くために向かった場所は、蜂谷がオーナーを務める神楽坂の料亭「八夜」。
美しい中庭には、木が一本だけ立っているのが見えます。

前回と同じく、蜂谷の会いたい人物は袖岡絢子(そでおか・あやこ)でした。
彼女は蜂谷が若かりし頃に修行した料亭「袖岡」のお嬢様で、亡くなった時は、わずか16歳。
生まれつき虚弱で病気がちな絢子でしたが、それでも気の強い性格の持ち主でした。

2人が親しく言葉を交わすようになったのは、蜂谷が18、絢子が14歳の頃。
蜂谷は絢子に恋心を抱いていましたが、それ以上の関係を求める気持ちはありませんでした。
彼女のことを絢子様と呼び、身分の違いをわきまえていたからです。
さらに絢子は17歳になれば、彼女の許に婿入りする男性と結婚することになっていました。

蜂谷は、絢子から面会の了解を得られない理由を自分なりに考えていました。
「生きている人間と会える一度きりの機会を、なぜ蜂谷などに使わなければならないのか」と、絢子は思っているだろう、と。
それでも蜂谷は、いつも通りの丁寧な言葉使いで絢子との再会を歩美に依頼します。

ただし今年はいつもと違い、「一言だけ、伝えてもらいたいことがある」と、歩美に頼んできました。
すると長年、断り続けてきた絢子が、会うことを承諾。
面会を自分の料亭で行いたかった蜂谷は、品川のホテルでないとダメだとわかると、なぜか低い階の部屋を希望。

ついに念願の再会を叶えた蜂谷は、絢子に何を語るのでしょうか。

そして、歩美と奈緒の関係にも注目です。

 

感想

心潤す感動の5編。

静かに胸を打つ「母の心得」もよかったし、表題作の「想い人の心得」もいい。
非哀感なく前向きなラストで、読了後はいい話を読んだなあ、と思える物語でした。
老若男女が読んでも楽しめる作品だと思います。
それと、もしこのシリーズが続くのなら、少しミステリチックにしたものも見てみたい気がします。

 

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