東野圭吾「魔力の胎動」あらすじ・感想!五感を超えた奇跡の能力

小説

東野圭吾さん原作「ラプラスの魔女」が今年の5月に映画化されました。
その前日譚「魔力の胎動」は3月23日に発売された全5章の連作短編集です。
そのあらすじを書いたのでご紹介します。

 

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あらすじ

 

 

 第一章 「あの風に向かって翔べ」

鍼灸師(しんきゅうし)の工藤ナユタは、スキージャンプの国内戦を控えたベテランジャンパー、坂屋幸広(さかや・ゆきひろ)への施術を行っていました。

ナユタが坂屋に鍼を打つようになってから3年。
この日はいつもの坂屋と違い、彼の口から聞かれるのは弱気な言葉ばかりでした。

治療後、2人は北稜(ほくりょう)大学の流体工学研究室にやって来ると、そこで研究をしている筒井利之(つつい・としゆき)に前回の試合の解析結果を見せてもらおうとしていました。

するとその時、羽原円華(うはら・まどか)と名乗る女性が筒井を訪ねて来ます。7年前に北海道で発生した竜巻で母を亡くしている円華は、その被害状況を分析していた筒井に調査結果を見せてほしいということでした。

そのとき筒井は、円華の父が開明大学医学部にいる日本を代表する脳外科医だと坂屋とナユタに説明しておきました。

しかし試合の近い坂屋に解析結果を早く見てもらうため、円華には少し待ってもらうことに。

筒井がパソコンを操作し、画面には坂屋の前の試合映像が映し出されると、近くで見ていた円華がフォームの欠点を的確に指摘してきました。
さらにその原因が坂屋の右膝にある古傷ということまで見抜きます。

なぜ素人が一目見ただけで、そこまで分かるのか。

円華に興味を感じたナユタは彼女をジャンプ練習の見学に誘います。
2人が競技場に着くと、次の試合に出場する坂屋と他の選手たちの練習がすでに始まっていました。
一通り見たあと、円華は坂屋の優勝は難しいと言います。
ナユタはどうしたらいいか訊ねるが、円華にはそれほど関心がない様子でした。

そんな時、練習を見に来ていた坂屋の妻、キョウコと1人息子のシュウタに出会います。
キョウコの話では、長い間、坂屋から応援に来ることを拒まれていたとのことでした。それは長年調子の上がらない坂屋が勝てない姿を妻子に見せたくないのだとキョウコは推察します。

しかし4歳になるシュウタが、坂屋のスキージャンプ用 ヘルメットを見て、自分の父親が宅配ピザの店員さんと本気で信じているらしく、そんな息子にスキージャンパーとしての父の姿を見せるため、応援に行くと押し切ったのでした。

なぜなら、土日に行われる試合で坂屋は引退を決めていて、父の勇姿を見せるには今回が最後のチャンスになるからです。

そんな思いを知った円華に、シュウタのためにも坂屋を勝たせたいという気持ちが芽生えてきました。

そして迎えた土曜日。

円華はすでに筒井から竜巻の調査内容を訊いており、あとは帰るだけでしたが、坂田の応援に駆けつけます。
そして坂屋にこう告げます。
試合では「わたしの合図でスタートして」と。

筒井の助手という名目でコーチボックスに入ることができた円華は、筒井とナユタに刻々と変わる風向きを読めると言い放ちます。

2人はもちろん半信半疑。
そこで選手達がジャンプ台を飛び出すと、空中での飛行姿勢を見ただけで、円華は次々と選手たちの飛距離を言い当てていきました。

2人は驚きが隠せません。

その時、ついに坂屋の飛ぶ順番が来ました。
しかし、円華の力を知らない坂屋は円華の合図ではなく、コーチの合図でスタートを切りました。

結果は最下位に。

そんな状況で迎えた日曜、自分に失望した坂屋はこの日の試合を棄権して、そのまま引退すると決めます。

そんな坂屋に円華は

「昨日勝てなかったのはあたしの合図に従わなかったから。ちゃんと従えば、今日は勝てる」
「シュウタ君にジャンプを見せてやりなよ」と発破をかけます。

すると円華の言葉に腹が座ったのか、坂屋は棄権を取り消し、円華の合図に従うことを約束します。
しかし円華は、坂屋が指示通りにスタートを切ったとしても、問題は2本目にあると言います。

坂屋にとって最後となるかもしれないその2本目のジャンプには何があるのか。
現役最後のジャンプに挑みます。

 

 第二章 「この手で魔球を」


今から7年前、石黒達也(いしぐろ・たつや)は30歳という年齢でプロ野球の球団から指名され、投手として入団しました。

球団側は中継ぎとして期待しましたが、現実は厳しく一軍では通用しません。
ところが、石黒がキャッチャーの三浦勝夫(みうら・かつお)を相手にピッチング練習をしている時でした。

アマチュア時代に身につけたというナックルボールを投げると、不規則に揺れて落ちるボールに三浦は驚かされます。

特殊な変化をするナックルボールはコントロールが難しい球種で、石黒もプロでは一度も使っていませんでした。
その上、キャッチャーもうまく捕球できず、ボールを顔に当て怪我をするくらい危険な球種です。

そこに活路を見いだした三浦と首脳陣は、徹底的にナックルボールの練習を石黒にさせます。
それから高い確率でストライクゾーンに投げられるようになった石黒は、三浦を専属キャッチャーにして1軍で活躍できるほどになります。

しかし数年後、左ひざの故障が限界にきていた三浦は引退を考えますが、石黒のナックルボールを捕れるキャッチャーが他にはいません。

後釜を誰にするか。

三浦が推薦したのは山東(さんとう)でした。
長年、三浦を参考にしてきた山東ならナックルボールを捕れるはずだと、昨シーズン、石黒の最終登板で山東にキャッチャーを務めさせました。

序盤はしっかりとナックルボールを捕球していた山東ですが、1度ミスをすると動揺したのか、落球を連発。
それから自信を無くした山東はナックルボールを捕ることができなくなります。

そんな中、三浦がいつも往診を依頼する鍼灸師の工藤ナユタを通じて、北稜大学の筒井利之准教授にナックルボールの研究のため、石黒の投球を撮影させてほしいと頼まれます。

三浦と石黒は快く承諾。

今回、この話を耳に入れた羽原円華も筒井の助手として撮影に同行することに。
竜巻で母を亡くした円華は、異常気象を予測できるようになりたいという思いがあり、そのためにナックルボールについて解明しておきたいことのようです。

撮影当日、三浦は山東にも捕球をさせて、どうして落球してしまうのか、ついでに撮影を頼みます。
映像を解析すると、捕球直前にミットが無駄に動いているのがわかりました。
原因のケースは精神的なものであることは明白でしたが、改善策が見つかりません。

石黒のナックルにすっかり感銘を受けていた円華は、山東の他に三浦の後継者になれるキャッチャーがいないことを知ると、山東を立ち直らせるためにある考えが思いついたと言います。
それは何かと訊ねる石黒に円華は言います。
「それを説明する前に、あたしに向かって、ナックルボールを投げてほしい」と。

 

 第三章 「その流れの行方は」

 

西麻布の交差点で工藤ナユタは高校時代の旧友、脇谷正樹(わきたに・まさき)と偶然の再会を果たします。

そのあと、居酒屋で思い出話に花を咲かせる2人。

現在はイタリアン・レストランで働いているという脇谷は、いずれ自分の店を持ちたいと夢を語ります。
さらに1年前に結婚した奥さんとの間に子供ができたという脇谷ですが、何故か元気がありません。

その原因は2人が高校時代にお世話になった恩師、石部憲明(いしべ・のりあき)にあるようでした。
脇谷によれば、去年石部の家族3人がキャンプに行った時、石部の12歳の息子である湊斗(みなと)が足を滑らせ、川に転落して今も意識が回復していないということでした。

事故後は、息子の看病のため休職しているという話でしたが、その前から石部は魂の抜け殻のようになっていたとか。
そんな恩師のことを憂えている脇谷は湊斗の見舞も兼ねて先生の様子を見に行くことを考えていました。

さらに脇谷の話では、石部は息子を脳神経外科の権威がいる開明大学病院に移したということでした。

ナユタは円華に連絡を取り、その情報が本当かどうか確かめると、やはり湊斗は2週間前に開明大学に転院してきたと言います。
深刻な状態が続いているらしく、天才脳科学者の円華の父、羽原全太郎博士が担当することになっていました。

それなのに、事故から1年以上経った今も石部は一度も病院に顔を見せていなく、病院関係者も不審がっているという話でした。
一方、石部の妻は毎日来ているらしく、詳しい事情を訊けるかもしれないと、ナユタと脇谷は見舞いに行くことに。

2人は円華の案内で何故かVIPが入院するというセキュリティが厳重な8階のフロアに連れてこられます。
病室に入ると、介護用のベッドで眠っている湊斗の近くに、石部夫人の姿がありました。

石部夫人は2人とあいさつを交わしたあと、息子を助けられなかったことを振り返りたくないのか、事故について話したくない様子でした。
ただ、息子の湊斗が重度の発達障害があり、元気だった頃は気の休まる時がなく精神的に参っていたことを打ち明けてくれました。

ところが夫の石部のことに話が及ぶと、途端に歯切れが悪くなり、急に帰るように促してきました。

それから3日後。

石部夫人から石部の事を訊き出せなかった2人は、当時の同級生から石部の情報を得ることができました。
去年の6月13日、S県の黒馬川キャンプ場で事故が起きたあと、石部は休職前から毎月13日になると休みをもらい、事故のあった場所に行っていたようでした。

息子の湊斗が亡くなっているのなら慰霊のためかもしれないが、何の目的で行っているのか、という疑問が生まれました。
そこで2人が、13日に事故のあったキャンプ場に行くと、湊斗が落ちたとされる辺りで石部を見つけました。

突然現れた教え子達に驚く石部。

脇谷が、なぜ病院に行かないのか訊ねると、石部からは息子の湊斗に合わせる顔がないと返ってきました。
それは湊斗が足を滑らせ川に落ちた時、飛び込んで助けようとした石部夫人を石部が止めたらしいのです。

二次被害を防ぐためにやむを得なかったと。

それからというもの、あの時の判断が正しかったのかどうか、ここにやって来ては答えを探しているということでした。
辛い話を聞いた2人は、なんと声をかけていいかわからず、帰路に就くことに。

途中、ナユタは脇谷の家に上がらせてもらうと、生まれてくる子供がダウン症の疑いがあることを脇谷の妻から聞かされました。
脇谷は、同じく障害のある子を持つ石部に相談をするつもりでしたが、すっかり憔悴していた石部を見たらそれどころではなくなったようでした。

後日、ナユタは石部が悩んできた事を円華に説明すると、そんなことに悩むのは時間の無駄と一蹴されます。
湊斗をあの状態から意識を取り戻させるには円華の父、羽原博士の手術が必要で、そのためには、両親の承諾がいることをナユタに説明しました。

怪物が増えても面倒になるだけで本当はしないほうがいいくらいの手術だとも付け加えて。

その後、円華から頼まれたナユタは石部に連絡を入れ、円華に指定された日時に事故現場に来てもらうことに。

当日、ナユタと脇谷が一緒に現場に向かうと、「円華はいったい何をする気なんだ」と、脇谷がナユタに訊いてきました。
その問いに対して「俺にもわからない」「とにかく彼女には不思議な力がある。それを使ってまた一つ俺たちを驚かせようとしているんじゃないかな」と、ナユタは答えました。

そして現場にみんなが揃うと、円華の能力が発揮されますが、石部の探していた答えは見つかるのでしょうか。

 

 第四章 「どの道で迷っていようとも」

朝比奈一成(あさひな・かずなり)は視覚に障害をもちながらも、有名なピアニストであり、作曲家でもある40歳間近の男性です。

彼が生み出す曲を楽譜に書き記す手助けをしたり、身の回りの世話役をしてきたのが、尾村勇(おむら・いさむ)でした。
朝比奈は尾村のことをサムと呼び、かけがえのない存在でした。

朝比奈は尾村の了解を得てから、雑誌のインタビューで「自分はゲイである」とカミングアウトします。
パートナーの存在は隠しましたが、朝比奈の周囲からは、そのパートナーが尾村勇であることは見抜かれていました。

それからしばらく経ったある日のこと。

朝比奈の家に鍼灸師の工藤ナユタが訪れてきました。
数ヶ月に一度の割合で朝比奈の治療のため、この家に来ていたナユタ。

この日、尾村が自殺したことを聞かされました。

尾村の遺体が発見された場所は標高1300メートルの山で、正式な登山道に従って登れば危険もないとの事。
尾村は、登山道から離れた所にある断崖から落ちた可能性が高いという見方でした。

ではなぜそんな場所へ行ったのか。

登山が趣味だとは聞いたことがないうえ、道に迷う場所ではないことから、自殺をするために断崖へ行ったとしか考えられませんでした。
尾村を失ったあとは、すっかり元気を無くし、曲作りを止めてしまった朝比奈。

どうやら自責の念を感じているようでした。

SNSで拡散されたカミングアウトの話題は、家にこもって曲作りをする朝比奈と違い、非常勤講師として大学に行っていた尾村は、相当な偏見にさらされていたことが想像できたからです。

ナユタは、朝比奈の妹、英里子(えりこ)から「兄は工藤さんのことを心から信頼していますから」と、言われますが、ナユタは「自分に期待されても困る」という思いでした。

そんな時、ナユタの携帯に円華から連絡が来ます。

話があると言われ、数ヶ月ぶりに会うことになると、円華はある人物を捜す手がかりとして甘粕才生(あまかす・さいせい)という映画監督を調べていると言います。

そこで甘粕の作品を何本か観ていたら、昔の作品にナユタが本名の工藤京太の名で子役として出ていたのを見つけたということでした。

ナユタなら何か知っているかもしれない。
円華は甘粕について話を聞かせてほしいとナユタに言いまた。

ところが、「あの頃のことは思い出したくないので、力にはなれない」と、ナユタ。

なぜ思い出したくないのか。

原因は、ナユタが芸能スクールに通っていた中学2年の頃にありました。
円華も見たという甘粕監督の映画「凍える唇」。
その映画の中でナユタは、同性と体の関係を持つシーンを演じさせられました。

あまりの内容に両親が激怒し、芸能事務所を辞めることになりますが、周りに気づかれることもなく中学生活を送ることができました。
ナユタ自身も忘れることができて、高校に上がっても普通の生活を送っていましたが、三年生になって間もなくのことでした。

学校に行くと机の上に「凍える唇」のパンフレットが置かれ、「変態役者 工藤京太」と手書きされていました。
その噂はまたたく間に広がり、生徒はもちろん、教師からも偏見な目で見られていました。

その辛い記憶を再び呼び起こすことはできないと、円華の申し出を断った3日後。
また円華から連絡が来て、もう一度会うことになりました。

そしてナユタが用件を聞くと、ナユタが朝比奈の鍼灸治療をしていることを知り、ナユタに円華の父、羽原博士と朝比奈の連絡役を引き受けてほしいとのことでした。

なぜ羽原博士が朝比奈に会いたがっているのか。

羽原博士は朝比奈の作り出す曲が脳の機能回復に役立つことを見つけたらしく、その因果関係を調べるためにも、ぜひ朝比奈にインタビューをしたいとの事でした。

ナユタは「紹介するのは構わないが」と、前置きしたあと、関係を持っていた尾村の自殺で失意の朝比奈に会っても無駄だと円華に説明しました。

それならと、円華は朝比奈に復活してもらうために、尾村の死の真相を突きとめようとします。真の目的のためにも。

 

 第五章 「魔力の胎動」

 

地球化学の研究者・青江修介(あおえ・しゅうすけ)のもとに、D県警から一本の電話が掛かってきました。

D県にある赤熊温泉で硫化水素による中毒事故が起きたことで、専門家の青江に原因究明と今後の対策に力を貸してほしいとの事でした。
県警に協力することにした青江ですが、以前にも同様の事故で調査を頼まれたことを思い出します。

3年前 ———。

J県の灰堀温泉で硫化水素中毒事故が起きると、青江は摂津(せっつ)というJ県の職員から調査協力を要請されます。

青江はその摂津と面識がありました。
これよりさらに1年3ヶ月ほど前に、国内の温泉地で硫化水素ガスの発生状況を調べるため、この灰堀温泉に来ていました。
その時に現地の案内をしてくれたのが摂津でした。

今回再び、灰堀温泉に行くことになった青江と助手の奥西哲子(おくにし・てつこ)。

灰堀温泉駅に着くと外は一面の銀世界。

そこで観光客と見られる妻を連れた白髪の男性に声をかけられました。
話を聞くと事故が起きた事は知っていましたが、用心すれば大丈夫だろうという軽い気持ちでいました。

それから間もなくして、摂津が車で迎えに来ると、現場に着く間、摂津から事故の概要を聞くことができました。

事故が起きたのは昨日の午前中。
被害に遭ったのは、両親と小学生の息子の3人家族。
レンタカーで来ていたということでした。
そのレンタカーがチェックアウト後も駐車場に置きっぱなしになっていることを不審に感じた宿主や従業員たちが家族を捜しに行きました。

すると近所の人達から、父親が村の南側にある神社のそばでタバコを吸っていたというものと、母親と少年は北に向かって歩いていたという目撃証言が得られました。

最終的には、母親たちが向かった先にある空き地で3人の家族が発見されたのですが、そこは前回の調査で最も危険なポイントとして挙げた現場の1つでした。

立ち入り禁止の看板を出していたと言う摂津でしたが、除雪車が看板を引っかけて倒してしまったとの事。
車両内とはいえ、除雪車が立ち入り禁止エリアに侵入することは危険なことで、どちらにしても青江の忠告を軽視していたことは否めません。

さらに驚いたことに灰堀温泉村では、ガスマスクを着けた警察官の姿が散見されるなど、緊迫した空気が流れているにもかかわらず、観光客の姿がちらほら見られました。
駅で出会った夫婦と同じく、まるで対岸の火事としか捉えていないのではないかと、青江は少し呆れた様子。

そうこうしているうちに現場に到着した青江たちは、不思議に思うことがありました。
被害者家族はこんな所に何をしに来たのか。
通り抜ける道もない。美しい景色も見られない。
一体、ここで何をしていたのか。
まるで見当がつきません。

その後、村役場で行われた対策会議では、被害者家族の名字が吉岡だと報告されたあと、話し合いが始まりました。

観光客や住人を非難させるよう提案した青江に対して、観光で成り立っている村側からは、やはり反対の声が聞かれ、意見が分かれます。
そして話し合った結果、青江の声もむなしく強制力のない避難勧告を出すことで落ち着きました。

会議後、青江はこの日の宿泊先として選んだのは、被害者家族が泊まっていた山田旅館。
青江は宿に着くと、さっそく宿の主人から事故当日の詳しい情報を聞くことができました。

その主人の話によれば、被害者家族には火山ガスで危険なので、北には行かないように説明したとの事でした。
しかし、実際に説明を受けたのは父親だけで、母親と息子はその場にいなかったと言います。さらにチェックアウトの後、息子は何かゲームをするようなことを言っていたということでした。

そんな話をしている途中、駅で出会った白髪の男性がここでも青江に声をかけてきました。
どうやら同じ宿に泊まるようです。
能天気な話をしてくる白髪の男性に困っていると、今度は後ろから声が聞こえてきました。

カウンターに目を向けると30代半ばの女性が予約なしで宿泊の手続きをしているところでした。
事故のことを知ってか知らずか、何で予約もしないでこんな所まで来たのか。
食堂に行き、そんなことを考えていると、また白髪の男性が寄ってきて青江の隣に腰を下ろしました。

男性は桑原と名乗り、仕方なく話し相手になっていると、先ほど予約なしで来た女性が食堂へとやって来ました。
桑原は妻と来ているにもかかわらず、今度はその女性に声をかけに行くのですが、その話した内容を青江に伝えるため、青江の部屋を訊ねます。

桑原の話では、彼女は事故があったことを知らない振りをして、この温泉地に来ているらしく、自殺するためにやって来たかもしれないということでした。
だから、明日も危険な場所で調査を続ける青江に、彼女を見かけたら注意してもらいたいと言い残し、部屋から出て行きました。

翌日、青江は対策会議を行うため村役場に行くと、すでに新しい情報が入っていました。

被害者の吉岡は先月、会社からお金を着服していると疑われ、誤解が解けたあとも精神的不安定な状態に陥り会社を辞めたといいます。
さらに吉岡にはマンションのローンもまだ残っており、自殺するのではないかと、吉岡の姉が心配していたという話も聞かれました。

確かに吉岡は宿主から、あの辺りが危険だと教えられていたはず。
すると自殺、もしくは無理心中をするために、あの場所に足を踏み入れた可能性も考えられます。

その時、青江の頭に浮かんだのは、桑原が話していた例の女性でした。
やはり彼女も自殺が目的でやって来たのだろうか。

会議後、青江が助手の奥西と要注意箇所を見て回っていると、その女性が立ち入り禁止の看板がある前で、警察官に話しかけていました。
そして彼女がレンタカーで走り去ったあと、青江が警察官に話を訊くと、彼女は一番危険な場所を知りたがっていたようでした。

少し心配にはなりましたが、青江と奥西は見回りを続けていると、村の南端で古い神社に気づきました。
そこは、遺体となって発見される前に、吉岡が1人でいたとされる神社でした。

なぜ吉岡は奥さんと息子を置いて1人でここまで来たのか。
謎が残ります。

その後、摂津からある女性を紹介されました。その女性は事故当日に吉岡の息子が、広げた紙を両手に持ちながら歩いていたのを目撃したと言います。

その話にヒントを得た青江は、道端の看板に描かれた村の地図を見て、何かに気づいた様子。そして助手の奥西に声を放ちます。

「さっきの神社だ。とんでもないものが見つかるかもしれない」と。

感想

第4章までは、不思議な力を発揮した円華が活躍します。
表題作となった「魔力の胎動」は「ラプラスの魔女」に繋がる前日譚。
被害者家族の謎の死以外にも、桑原と不審な女性の正体などミステリー要素が含まれており、円華は出てきませんが十分楽しめます。

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