東野 圭吾 「クスノキの番人」あらすじ・感想! 神秘に彩られた感動作

小説

ミステリーに限らず多彩なジャンルの作品を手掛けている作家、東野圭吾さん。
今週刊行された「クスノキの番人」は「秘密」「時生」「ナミヤ雑貨店の奇蹟」に続く新たな感動作と銘打たれた書き下ろし長編です。

さっそく読ませて頂きましたので、ネタバレに気を付けて、あらすじを紹介したいと思います。

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あらすじ

主人公の直井玲斗は、ホステスをしていた母親の美千恵が妻子持ちの常連客と不倫してできた子供でした。
男は認知しないまま交通事故で亡くなり、玲斗は父親について何も知りません。
家族は母親と祖母の富美だけでしたが、小学校の低学年の時に母親を病気で亡くしてからは、祖母との2人暮らしになりました。
卑屈に生きてきた玲斗は、高校卒業後、食品会社に就職しますが2年目で退職。
その後、友人に誘われクラブで黒服として働きますが、プロ失格の行為をして解雇。

その約2ヶ月後に再就職するも、一年後に再びクビを言い渡されます。
しかし不当解雇に納得いかない玲斗は会社に忍び込み盗みを決行。
残りの給料や退職金も払わない悪徳経営者に対して、罪悪感を抱くことはありませんでした。
ところが、思いがけないアクシデントに見舞われ、あえなく警察に御用。
刑務所行きを覚悟した玲斗でしたが、ある人物から依頼を受けたという弁護士が留置場にやってきました。
弁護士は依頼人からの伝言を玲斗に伝えます。
それは玲斗を助ける代わりに、依頼人の命令に従わなければいけない、ということでした。
玲斗はその条件を受け入れ、晴れて釈放。
多額の弁護士費用を払い、玲斗を助けた謎の人物は一体何者なのか。
弁護士に連れて来られた高級ホテルにその人物はいました。
受け取った名刺には「ヤナッツ・コーポレーション  顧問  柳澤千舟」と、記してありました。
年齢は60を過ぎたあたりで、結婚に縁がなかった彼女に子供はいません。
玲斗の伯母だと名乗りますが、玲斗はチフネという名前にも記憶がありません。
それもそのはずで、千舟と玲斗の直井家はこれまで、ほとんど交流がなかったからです。
柳澤家の婿養子だった玲斗の祖父・直井宗一が、妻との間に授かった一人娘が、千舟でした。
宗一は妻を病気で亡くしますが、千舟が高校卒業を控えていた頃に、姓を元の直井に戻し、富美という若い女性と再婚。
2人の間に生まれたのが、未来の玲斗の母になる美千恵でした。
千舟と美千恵は異母きょうだいとなりますが、柳澤家に残った千舟と美千恵が一緒に住むことはありませんでした。
今回は富美から連絡を受けた千舟が、柳澤家の名に傷をつけないためにも玲斗を助けたと言います。
千舟は助けた見返りとして玲斗にしかできないことをしてもらうと言います。
それは何ですか、という問いに千舟は答えます。

「クスノキの番人です」と。

そして翌日、都心から電車やバスを利用して約一時間、そこからさらに歩き続け、見えてきたのは「月郷神社」。
千舟によれば、柳澤家はこの付近一帯の大地主で、「月郷神社」も柳澤家が管理していると言います。
玲斗が境内の奥へと連れて行かれると、繁みを抜けた先に姿を現したのは、巨大なクスノキでした。
その堂々たる風格に玲斗は言葉を失います。
このクスノキは、一部のスピリチュアルマニアには人気のパワースポットになっているらしく、木の中に入り願掛けをすれば、やがて願いが叶う、という伝説がネット上に転がっていました。
世間に広まれば広まるほど、木にいたずらをしようとする者が現れるので、管理人を常駐させておかなければなりません。
そこで千舟から神社の境内とクスノキの管理を命じられたのが、玲斗でした。
ここではクスノキに願い事をすることを祈念と言い、昼間は誰でも自由にお祈りできますが、夜は予約を取らなければいけません。
しかも、夜の祈念は誰にでも許されるわけじゃななく、予約を入れたあと、千舟の許可を受けた人だけに限られました。
玲斗は祈念者の相手をするところを千舟から学び、さらに細かな礼儀作法も厳しく教え込まれていきます。
祈念のルールは、受念者は必ずひとりですること。
クスノキの中に2人以上いるうちは、ロウソクに火をつけてはいけない。
クスノキの番人は準備を整えるだけで、祈念そのものに関わってはいけない。
では祈念とは何か。
玲斗は前日、千舟の存在を隠していた理由を祖母から教えられましたが、まだ何か秘密があるようにも見えました。
しかしクスノキの番人については本当に何も知らないようでした。
そして玲斗が管理人を始めてから、ひと月ほど経った頃、祈念に訪れたのは佐治寿明という50代半ばの男性でした。
時刻は午後10時を過ぎ、玲斗は祈念口の手前まで寿明を案内すると、2時間用のロウソクが入った紙袋を手渡します。
そこから寿明は1人で、クスノキのある繁みの奥へと消えていきました。
午前0時少し前、祈念を終えた寿明が帰ったあと、玲斗はクスノキの左側に回り、幹に空いた巨大な穴の中に入ります。
中は3畳ほどの空洞になっていて、燭台の手前にロウソク代が置かれていました。
料金はこのロウソク代だけで、それも気持ち次第。
大抵の人は一万円程度を置いて行きました。
そして見事な満月が浮かんだ翌日の夜。
再び佐治寿明は祈念にやって来ましたが、娘の優実が父親の後をつけてきました。
彼女の通う大学が夏休み中で時間がたっぷりあるらしく、昨日も繁みに隠れて、木の中にいる父親の様子を窺っていたところを玲斗に見つかっていました。
祈念中、ほかの人間を近づかせないようにすることも番人の仕事です。
今夜も玲斗が注意をしていると、木の中からおかしな鼻歌が聞こえてきましたが、何の曲かはわかりませんでした。
優実によると、父親の尾行を始めた理由は、父親の行動に浮気の兆候を感じ取ったからと言います。
そして母親に気づかれる前に証拠をつかもうと尾行をしたところ、父親がこの神社に入って行ったとのこと。
クスノキの中でどんなことを祈っているのか確かめたいと言います。
玲斗が過去の祈念記録を調べると、寿明が祈念に来はじめたのは半年前から。
優実の話では、認知症で体の自由が利かなくなった父方の祖母が施設に入ったのが、同じ半年前でしたが、そのことと寿明の祈念と何か関係があるのか。
そもそも祈念とは何か、具体的には何をしているのか、と千舟に訊いても
「クスノキの番をしていれば、いずれわかる日が来る」と、言うだけで玲斗は教えてもらえません。

翌日の夜10時、祈念にやって来たのは、老舗和菓子「たくみや本舗」の跡取り息子、大場壮貴です。
3か月ほど前に亡くなられた、壮貴の父親で「たくみや本舗」の最高責任者も、年に何度か祈念に来ていました。
この日、壮貴の付き添いで来た常務取締役の福田が祈念に立ち会いたいらしく、お金で玲斗の心を揺さぶろうとしますが、玲斗は応じません。
壮貴一人でクスノキに向かわせますが、真剣な福田と対照的に壮貴にやる気は見られず、ふてくされた表情で一時間もしないうちに戻ってきました。
その様子を見て、何かを感じ取った福田は肩を落としますが、また来月来ると言い残し、壮貴とともに引き揚げて行きました。
壮貴が後に語ったところによれば「たくみや本舗」の会長だった父親の大場藤一郎は、次期後継者について何も語らずこの世を去りました。
現在の社長は藤一郎の甥である川原基次が任されていますが、将来の後継者となる決定権を持つのは藤一郎でした。
基次の息子か、藤一郎の息子の壮貴か、役員の中でも意見が対立。
藤一郎が残した遺言書にも次期後継者のことについて何も触れていませんが、壮貴に月郷神社で祈念するように、と書かれていました。
しかし壮貴の祈念がうまくいきません。
なぜ、宗一郎が受念者を壮貴に限定したのかも謎のままでした。

その後、玲斗が5年前の祈念記録の中に、佐治喜久夫という名前が記載されているのを見つけます。
もしやと思い、佐治優実に訊いてみると、喜久夫は優実の父の兄だとわかりますが、優実と優実の母も、喜久夫についてほとんど知りませんでした。
優実の母によれば、喜久夫のことには触れてはいけない空気が佐治家にはあったとのこと。
4年前の秋に喜久夫が亡くなっていることは、夫と姑の様子で気付いたということでした。
父親が女の住む吉祥寺の高級マンションに出入りしていることまで掴んでいた優実。浮気者の父が一体何をクスノキの中で願掛けをしているのか、どうしても知りたいと言い、盗聴器を仕掛けることを玲斗に懇願します。
すると玲斗は彼女の脅しともとれるような迫力に負けて、しぶしぶ承諾してしまいました。
優実は、父が毎月この神社に来ることと、喜久夫が5年前に来てたことと、なにか関係があるのかどうか、玲斗に訊きます。
しかし、千舟が祈念者たちに、見習いの玲斗に何も教えないように頼んでいたため、祈念について誰からも教えてもらえず、クスノキの番人ながら何もわかっていません。

玲斗は、柳澤家のクスノキに代々世話になっているという飯倉という老人から、去年も祈念して預けた、と聞いたことがありました。
預けた、とはどういうことか訊ねましたが、祈念について何も知らない人間には簡単に話せない、とのこと。
ただ、クスノキの力は身をもって感じたことがあるが、願いが叶うかどうかはわからないと言っていました。

当初、うさんくさい目で見ていた玲斗も、祈念者たちの様子を見てきて、このクスノキには何か神秘的な力があるのではないか、と思うようになっていました。
なぜ夜の祈念の予約が、毎月新月と満月の夜前後に集中しているのか、千舟に訊くと、その時期に一番祈念の効果があることを皆が知っているため、その辺りに予約が殺到すると言います。
クスノキの正式な祈念は新月と満月の夜にするものだと教えてくれました。
そう言えば、優実の父が祈念に来るのは、毎月満月の夜で、喜久夫が来た5年前は新月でした。
では新月と満月の夜に行う祈念の違いは何か、と玲斗が訊いてみますが、千舟はそこまでは話してくれません。

その後、玲斗は千舟とともに、柳澤グループの謝恩会に出席。
「ヤナッツ・コーポレーション 代表取締役」の柳澤将和と弟の柳澤勝重も姿を現しますが、将和たちは千舟と理念の違いがあり、柳澤グループがホテル事業に乗り出すきっかけになった最初のホテル「ホテル柳澤」を閉鎖にしようという考えでした。
一人でも反対の意思を示すため、パーティー後の役員会で意見を述べるつもりの千舟でしたが、突然役員会が中止になった、と言いホテルを後にします。
顧問といえど過去の人間だから、甘く見られていると感じているようでした。
ところが、忘れ物を取りに玲斗がホテルに戻ると、役員たちがまだホテルに残っていました。 
本当に役員会は中止だったのか玲斗が訊きくと、将和が答えました。「いずれ君にもわかる。本物の大人になれる日が来れば、の話だがね」と。

土曜日、玲斗の携帯に「ヤナッツ・コーポレーション」が展開している「ヤナッツホテル渋谷」に泊まれ、と千舟からメールが届きます。
ところが、滞在中は自由にして構わないとのこと。
では一体何のために泊まるのか。
その日の祈念の準備は千舟が自らやるということは、よほど大切な人物が祈念に来るということなのか、玲斗には千舟の意図が全くわかりませんでした。
そして佐治寿明の浮気を調べていくうちに、佐治家の秘密を知ることになっていく玲斗と優実。
宗一郎が息子の壮貴に伝えたかった真の意味が明らかにされる終盤。
千舟の隠してきた苦悩を知り衝撃を受けるも、前向きなラスト。

果たして、祈念とはどういうものなのか、玲斗は掴み取ることが出来るのでしょうか。

感想

まさに神秘に彩られた感動作という感じで、これまでの東野作品の中でも、違った味わいがあり、楽しめました。
こういった作品は映像化されたら絶対面白いと思います。

あまり明かせませんが、喜久夫が母親に伝えたかった思いは、涙ものでした。
玲斗と壮貴の成長には目を見張るものがありましたが、優実のことを密かに心寄せていく玲斗には、そちらのほうも頑張ってもらいたいものです。

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