東野圭吾「希望の糸」あらすじ・感想!見えない糸で繋がる家族の物語

小説

映像化される作品が多い作家の東野圭吾さん。
現在上映している「パラレルワールド・ラブストーリー」も絶好調のようです。
先日「令和」になって初の書き下ろし、と銘打たれた東野さんの最新作「希望の糸」を読了しました。
今作の主人公は加賀恭一郎シリーズでおなじみの松宮 脩平。
当ブログで東野さんの小説を紹介するのはこれで12作目ですが、これまで同様、ネタバレ無しであらすじを書いています。

 

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あらすじ

新潟県で発生した地震で小学6年生の娘と小学4年生の息子を失った汐見行伸(しおみ・ゆきのぶ)と妻の怜子(れいこ)。
悲嘆に暮れる日々を送っていましたが、このままではいけないと考えます。
もう一度子供を作り、やり直すことを決意する2人。
震災から一年。不妊治療を始めて10カ月。
2人は新しい命を授かることができました。

それから16年後 ——。

石川県金沢市に店を構える老舗料亭「たつ芳」。
40歳の女将、芳原亜矢子(よしはら・あやこ)は、祖父母の代からお世話になっている弁護士に封筒を手渡されます。
その中には、病気で余命いくばくもない亜矢子の父親、芳原真次が作成した遺言書の写しが入っていると言います。
公証役場で立会人を引き受けた弁護士は遺言書の内容を知っていますが、父が亡くなる前に読むも読まないも君の自由、とだけしか言いません。
その真意を汲み取った亜矢子はその場で開封することを決意し、中に入っていた遺言書を読みます。
財産は亜矢子に相続させるとあり、特に変わった点は見当たりません。
ところが最後のページに、予期しなかった内容と見知らぬ人物の名前が記載されていました。
松宮脩平(まつみや・しゅうへい)とは一体誰なのか。

そんな中、目黒区自由が丘にある「弥生茶屋」というカフェで殺された女性の遺体が発見されます。
所轄する警察署に特別捜査本部が設置され、鑑取りを担当するのは警視庁捜査一課の松宮脩平。
被害者はこの店の経営者で51歳の花塚弥生(はなづか・やよい)。
彼女は誰からも慕われ、愛されていた女性で、誰一人悪くいう言う人はいません。
独身で子供がいなかった弥生は、巡り合いという言葉が好きで「色々な人との巡りあいが人生を豊かにする」と、よく口にしていました。
こうして被害者の人間関係や生活に関する情報を集めていると、芳原亜矢子なる人物が松宮のことを捜していると、以前契約した不動産屋から松宮の携帯に連絡が入ります。
送られてきた相手の情報を見ても松宮には誰だかわかりません。
その女性は松宮の母、克子(かつこ)のことも知っているらしく、捜査本部に戻った松宮は、主任の加賀恭一郎(かが・きょういちろう)にこの女性を知っているか尋ねてみます。
松宮の上司で従兄弟でもある加賀は、克子の甥にあたりますが、やはり心当たりがないとのこと。
千葉に住む母、克子に電話をかけてみると「自分の口からは話したくない」と、何故か口をつぐんでしまいます。
一体どういうことなのか。
松宮は不動産屋を介して届いた芳原亜矢子の携帯番号を自分の携帯へ打ち込み発信します。
そして電話に出た亜矢子から聞かされたのは、彼女が知る人物が松宮の父親かもしれないということ。
明日の夜に会う約束を交わし、詳しいことはその時に聞くことになりました。

一方、殺人事件の捜査では、殺された花塚弥生の元夫である綿貫哲彦(わたぬき・てつひこ)のもとを松宮が訪ねると、綿貫は内縁の妻である中屋多由子(なかや・たゆこ)と暮らしていました。
殺された元妻のことについて訊ねると、一週間前に電話をよこしてきた弥生と、先週の土曜日に再会した、と話します。
但し、10年ぶりに顔を合わせた2人は雑談を交わす程度だったとのこと。
なぜ殺される一週間前に大した用もなく別れた亭主を呼び出したのか。
疑問が残ります。
綿貫から事情を訊いたあと、花塚弥生が入会していたスポーツジムとエステサロンに聞き込みに行くと、どちらも事件の起きる一月前からに通いはじめていたことがわかります。
好きな男ができて美貌を気にしだしたのか。
弥生の周辺をいくら調べても男の影は見つかりませんでした。
しかし、「弥生茶屋」に来る客は8割以上が女性という中で一人だけ常連の男性がいました。

その人物の名前は汐見行伸でした。

その後、金沢から上京してきた芳原亜矢子と対面した松宮。
亜矢子から芳原真次が病気で危険な状態が続いていることを聞かされたあと、遺言書のコピーを見せられます。
それには自分が芳原真次と松宮克子との間の子供であると、記載されていました。
小さい頃に父親は亡くなったと母から聞かされてた松宮は、葬式をあげたかどうかは覚えておらず、松宮家にお墓はありませんでした。
遺言書に書かれていることが本当なら、今年33歳になる松宮は亜矢子の腹違いの弟ということになります。
亜矢子によれば、自分が6歳だった頃、料亭「たつ芳」を継ぐことになっていた母が交通事故に遭ったといいます。
その時、東京へ料理の修行に行っていた婿養子の父が急きょ戻ることになり、重い障害を負った妻の世話をしながら、料理長を務めるようになった、と聞かされていたとのこと。
松宮によると、料理人だった父は正妻と別れたあと、母と再婚し、松宮を認知すると言っていたが、火事に遭い亡くなったと母から聞かされていたそうです。
ただし、松宮たちが暮らしていた場所は群馬県の高崎。
双方の話を統合すれば、一旦は高崎の土地で家族を作ろうとした亜矢子と松宮の父は、正妻が事故に遭ったことで、彼らを捨て、元の家庭に戻った、と思わざるを得ませんでした。
それでも母を献身的に支え続けた父を見てきた亜矢子は父を責める気はありませんでした。母との別居も何かの理由があったのかもしれないと考えます。
松宮は真実を母から訊きださないことには何とも言えないといい、父に会うかどうかは、その後に決めるということになりました。
翌朝、松宮は母の克子に電話をかけますが、相変わらずこの件に関して口を閉ざしたままでした。
松宮がこの話を加賀に報告すると、子供頃に野球がしたいと言い出した松宮のことを野球好きの父親と血の繋がりは争えぬものだ、と克子から聞いたことがあると、加賀は言います。
それを聞いても、一度は家庭を捨てて他所に女を作ったような人間だ、と吐き捨てます。
そんな松宮ですが、所轄の刑事を連れて汐見行伸の家を訪ねた報告も忘れてはいません。
62歳になっていた行伸は2年ほど前に妻の玲子を病気で亡くしており、14歳の娘、萌奈(もな)と2人で暮らしていました。
この父娘の間には深い溝が生じているようで、食事は一緒に摂ることはないとのこと。
一通りの事情聴取を終えた松宮は推察します。
行伸は悪い人間ではないが、「心に闇を抱いている」と。
このあと、松宮は行伸から訊いたアリバイを確かめに行きますが、証明できませんでした。

行伸は、刑事が自分の周辺を嗅ぎまわっていることに「厄介なことになった一体どうすればいいのか」と、悩みます。
そして、花塚弥生と初めての出会った時のことを思い出します。
約束された相手についに出会ったと。

後日、行伸と被害者は交際していたのではないか、と睨んだ松宮は、行伸が犯行に関わっていたとみて、娘の萌奈からもう一度話を訊きます。
すると萌奈は、父に対する不満をぶちまけます。
何かに怖気づくような、それでいて何か言いたげな、そんな目で自分を見てくる父に腹を立てていると。
萌奈は、亡くなった兄と姉の話をうんざりするくらい聞かされて育ったせいで、死んだきょうだいの身代わり扱いは嫌だと強く感じていました。
そんな萌奈に花塚弥生の顔写真を見せると、この女性はここ3ヶ月間、萌奈の入っているテニス部の練習を見に来ていたと言います。
なぜ彼女がそんなところに、と首を傾げる松宮。
そんな時、突然中屋多由子が自白した、と知らせを受けます。
あまりに意外な人物だったことに、誰だかすぐには思い出せませんでした。
中屋多由子の供述には間違いがないことも確認され、捜査関係者しか知り得ない情報も知っていたため、彼女が犯人であることは疑いがありません。
こうして事件が収束に向かうなか、何か腑に落ちない松宮。
犯人は捕まった。しかし彼女は本当のことを話してはいない可能性が高いとみます。
綿貫と汐見の2人も何かを隠していて、そこに事件の真相があるのではないか、と。

事件が発生した一週間後に、綿貫が花塚弥生の死後事務を代行する、と弥生の両親に申し出ていたことが松宮の心に引っ掛かっていました。
他人が安易に引き受けるほど楽な作業ではなく、いくら元夫でも何か魂胆があるのではないか、と。
弥生の母によれば、委任状を持ってやって来た綿貫はすぐには帰らず、弥生のアルバムを見て帰っていったとのこと。
そのアルバムを松宮も見せてもらうと、全ての写真が剥がされていた跡があるページを見つけます。
そのことは弥生の母も知りませんでした。
もし綿貫の仕業なら、なぜこのページの写真だけを持っていったのか。
首をひねりながら次のページをめくります。
そこの写真は残されていましたが、一枚の写真を目にした瞬間、思考に混乱をきたすほどの衝撃を受けた松宮。
1人の少女の運命を変えてしまうような重大な秘密を知ることに。

そして母の克子が隠している真実を知るため、松宮は母のもとを訪ねます。
芳原真次と別れた理由を問いただすと、これまで口を閉ざしてきた母はようやく語りはじめます。

感想

まさかの加賀シリーズで驚きましたが、今作でも加賀の犯人を追い詰める目力は健在。
松宮も頑張っていましたが、刑事としておいしいところは加賀にもっていかれたような気がします。松宮が主役だったのに。
でもやっぱり東野さんは凄い。
一見ばらばらで関連性のない物語が重なり収束していく構成はいつもながら見事。
終盤に用意されていた親子関係の修復や、クライマックスとなる対面場面は胸にジーンときました。

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