カズオ・イシグロ「日の名残り」あらすじ・感想!過去を悔いる衝撃の告白

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今回紹介する作品は、1989年にイギリスで最高の文学賞とされるブッカー賞を受賞したカズオ・イシグロさんの「日の名残り」です。

以前紹介した「わたしを離さないで」でもそうでしたが、カズオ・イシグロさんの作品は「信頼できない語り手」というテクニックを用いて現時点から過去を回想する形がよく使われています。ですから、主人公の記憶を信じていいのか考えながらページをめくっていく必要があります。

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あらすじ

舞台はイギリス。

主人公のスティーブンスは貴族のお屋敷、ダーリントン・ホールに勤めている老執事です。
お屋敷の主だったダーリントン卿に35年間仕えていましたが、1953年に卿が亡くなります。

その後、アメリカの富豪ファラディがお屋敷とそこに勤めているわずかな人員を買い取ったことで、スティーブンスは新しい主人に仕えることになりました。

1956年7月、ファラディは自分がアメリカに帰国している間、長年お屋敷に住んでいるスティーブンスに一週間ほど自動車での国内旅行を勧めますが、お屋敷のために生きてきた彼は乗り気ではありませんでした。

そんなとき、かつて屋敷に女中頭として勤めていたミス・ケントンから手紙が来ます。
彼女は1936年に屋敷から去り結婚しましたが、手紙には何度も家出をしていると書かれていることから、彼女が復職を望んでいるのではないかと読み取ります。

屋敷に人手が足りず困っていたスティーブンスはミス・ケントンを説得して屋敷に戻ってもらおうと、旅行を兼ねて彼女に会いに行くことに決めました。
決して想いを寄せていた女性だったから会いに行くわけではなく、あくまで人手の足りないお屋敷のためというのが名分でした。

いざ旅に出ると、幾度なく自分の執事人生が本当に正しかったのか過去を振り返っていきます。
1922年に彼の父がダーリントン・ホールにやって来た時のことでした。
父は前のお屋敷では名執事として働いていましたが、雇い主が亡くなり新しい職を探していました。
そこで年齢は70を過ぎていましたが、長年の執事経験を買われダーリントン・ホールに来ることになったのです。

1923年3月にはダーリン・トンホールで、外務省に勤めていたことのあるダーリントン卿のコネクションを生かし、国際会議が開かれることになりました。
卿の目的は、第一次大戦後にヴェルサイユ条約で課せられた多額の賠償金に大不況も加わり苦しんでいるドイツを解放してやることでした。

会議中スティーブンスも執事として激務に追われますが、その時、父が倒れ危篤状態に陥いってしまいます。

スティーブンスが執事として一番大切にしていることは品格です。
執事としての品格とはどんな時でも慌てず冷静に対処し、何事もなかったようにふるまうこと。そう信じている彼は、感情を押し殺して何事もなかったように業務を遂行しますが、そのせいで親の死に立ち会うことができませんでした。

1932年にはダーリントン卿がドイツ支援の立場をとっていたことから、屋敷で雇っているユダヤ人の2人を解雇せざるを得ない状況にありました。

ダーリントン卿から指示を受けたスティーブンスは、ご主人様の考えを尊重し2人を辞めさせようとしますが、ミス・ケントンから猛反対を受けることになります。

有能な2人を理由もなく解雇するのはおかしい、執事のあなたがどうしてご主人様に意見も言えないのですかと。
そんなミス・ケントンの声も虚しくユダヤ人の2人は解雇されてしまいます。
スティーブンスは旅をしながらこの出来事を回想していきます。感情を押し殺し、執事として二人を解雇するということが本当に正しかったのか、少し後悔の色が浮かんきました。

旅を続けるスティーブンスの回想はミス・ケントンとの関係に変化があった1935年頃に入っていきます。
ミス・ケントンはこれまでと違い、頻繁に休みを取り外出するようになっていました。心配したスティーブンスはミス・ケントンにそのことを訊ねます。

すると彼女はその話題を待っていましたと言わんばかりに応じてきます。実は旧交を温めている人がいることを話します。しかしスティーブンスは動じません。そこで彼女は逆にスティーブンスに訊ねます。

すでに執事の頂点を極めたあなたには、他になにか望みはないのかと。

そんな時でもスティーブンスの口から出る言葉はダーリントン卿への想いです。するとスティーブンスの目に映ったミス・ケントンは少し混乱したようでした。

その後、一日の終わりに行われてきた2人での打ち合わせが、ささいな口論が原因で、廃止になってしまいます。ミス・ケントンはこれからも続けていきたいと懇願しますが、スティーブンスは拒否します。もしあの時、考え直していたら二人の関係はどうなっていたのだろうかと、ここでも後悔の念が見え隠れします。

職務を全うするあまり親の死に目にも会えず、また理由なき従業員の解雇などさまざまな後悔と向き合ってきた旅もついに終わりを迎えます。
スティーブンスはミス・ケントンとの再会を果たすと一瞬、言葉を失うほどの告白を受けるのでした。

感想

ダーリントン卿を敬愛し、執事としての品格を求め続けたスティーブンス。彼の極端なまでの自己抑制は立派でもありますが、気の毒に感じるほどでもありました。
それでもラストは良かったです。後悔を感じつつも、それでも自分の人生を前向きにとらえる姿は心にしみました。

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