宿野かほる「はるか」AIとの愛を問う心打たれるラスト!あらすじ・感想

小説

昨年「ルビンの壺が割れた」で、デビューした話題の作家、宿野かほるさんは、名前や性別、年齢と全てが非公開という謎の作家さんです。
デビュー作に続き、評価の高い「はるか」は、今年の6月に発売された2作目です。
その「はるか」のあらすじを今回もネタバレを避けて紹介します。

スポンサーリンク

あらすじ

割れた石に縞状の模様のある「メノウ」という石が、昔は地元の海岸でよく見られたといいます。

村瀬賢人(むらせ・けんと)がまだ幼いころ、海岸で何年も探し続けた「メノウ」は、内部のジオード(空洞)に、水が閉じ込められ、揺らすと中から水の音がするという「水入りメノウ」でした。

8月の暑い日、10歳の賢人が久しぶりに石探しをしていると、1人の少女に出会います。何を探しているのか聞いてくる少女に、賢人は「水入りメノウ」のことを簡単に説明しました。

すると、その少女が無造作に拾った石が、「水入りメノウ」でした。

何年探しても見つからなかった物を簡単に見つけられて、賢人は複雑な気持ちでした。少女がその石を耳に当て水の音を聞いていると、一瞬、少女と賢人は目が合い、お互い顔を赤くしていました。

少女は「この石、あげる」と賢人に手渡すと、明日東京に帰るといって去っていきました。

もうあの子には会えないのだと諦めていた賢人でしたが、2年後の夏に海であの少女を見つけました。

少女からも「ずっと会いたかった」と、言われた賢人は胸が熱くなります。

少女の名前は、掛橋はるか(かけはし・はるか)。
年齢は賢人と一緒でした。

その夏、賢人は、はるかと毎日のように会い、楽しい時間を過ごしました。

しかし、はるかの父親がアメリカに転勤することが決まり、日本に帰ってこられるのは7年後になると、はるかから告げられます。

深いショックを受ける賢人。

ふたりは7年後の今日、この場所で再会することを約束したあと、賢人が2人の想い出の「水入りメノウ」を再会する日まで預かってほしいと、はるかに手渡しました。

そして、アメリカに渡ったはるかからエアメールが届くと、手紙の最後があぶり出しになっていると気づき、火にかざすと「会いたい」と、書かれていました。
賢人がはるかに送る返事の手紙は、はるかの母親が隠していたせいで、何度送っても届くことはありません。

はるかからの手紙には、賢人からの返事の手紙が来なくて寂しいと書かれていて、そのうち、はるかからも手紙が送られてこなくなりました。

それから7年が過ぎ、東京の大学に進学していた賢人は、同窓会に呼ばれて故郷に帰ってきます。
夕方近くになり、その日がはるかとの再会を誓った日だったことを思い出した賢人。まさかとは思いつつも、約束の場所に行くと、はるかに預けていた石を見つけます。
石の裏側には口紅で書かれていました。

「さようなら、わたしの恋」と。

賢人はすぐさま駆け出します。走りながら「許してほしい、会いたい」と心の中で叫び続けますが、どんなに探しても、はるかは見つかりません。

後悔し続ける賢人は、あれから6年経ってもはるかのことを忘れることが出来ないでいました。

電機メーカーに就職した賢人の専門は人工知能の研究でしたが、会社が要求するシステムプログラム開発も仕事の1つとしてこなし、優秀なプログラマーとして一目置かれる存在になっていました。

そして社会人3年目の春。

偶然立ち寄った鉱石の販売会場で、2つに切られたメノウのジオードを見つけます。片方の石を手に取り、少し眺めたあと展示台に戻そうとすると、もう片方の石を手に持ち見つめている女性がいました。

その女性と目が合うと、長年会いたがっていた相手だと気付くまで、それほど時間は必要ありませんでした。

賢人とはるかは、会えなかった時間を埋めるかのように、あの夏に別れてから再会するまでどんな人生を歩んできたのか、お互いに話しました。
賢人は、半年後にはるかと結婚すると、その年に27歳という若さで取締役に就任するなど、順風満帆な日々を送ります。

どんなに仕事が忙しくても、寝る前には必ずその日にあったことを話し合いました。賢人の夢は会話の出来るAIを作ること。
はるかは、賢人が夢を叶えるところを近くで見ることができて幸せと語ります。
しかしその願いは叶いませんでした。
結婚してからわずか1年足らずで、はるかは交通事故で帰らぬ人となります。

11年後——。

副社長になっていた賢人は、秘書の立石優美(たていし・ゆみ)から告白を受けます。はるかを忘れられないでいた賢人でしたが、優美との交際を始めました。

賢人は2度と会えない妻への想いは封印し、新しい人生を歩む決心をしてから、半年後にプロポーズします。
優美は賢人が今もなお、はるかを愛していることを承知でプロポーズを受けてくれました。

そして結婚して3年目に賢人は独立して会社を立ち上げ、長年の夢だった話ができる人工知能(AI)作りに取り組んでいきます。

賢人は、生前のはるかの膨大な会話を録りためた記録を持っていました。
それを使えば、はるかと同じ「感情」と「性格」を持つAIを創り出せるはずと考えます。

賢人は優美から、はるかの記憶を持つAIを作る許可をもらいました。
そして、はるかの家族や友人、はるかの人生に関わって来た人物たちから、はるかの思い出や印象を取材し、AIに記憶させます。
その他にも音響技師たちのチームによって、AIがはるかと同じ話し方で会話を交わすことに成功。

5年後——。

完成したAIに「HAL-CA」と命名。

初起動は、賢人ひとりで行なうことを社員たちに納得てもらいました。

はるかと暮らしていた部屋を再現して作られた部屋。
机の上には、2人の想い出の「水入りメノウ」が置かれています。
賢人はこの部屋を「はるかの部屋」と名付けていました。

ここにもうすぐ、はるかが現れる。

緊張する自分に落ち着けと言い聞かせます。

プログラム通りに「HAL-CA」が現れる時間が来ると、生前のはるかが弾いていたピアノの音色が流れ、ホログラムの「HAL-CA」が映し出されていきました。

お互いの存在を確かめるように名前を呼ぶ賢人とはるか。
はるかは、自分が死んだこと、AIとして蘇ったことを自覚しているようにプログラムされていました。

再会を喜ぶ2人。

はるかが亡くなってから18年、賢人は46歳になっていましたが、はるかは28歳のまま。出会った頃の思い出話に花を咲かせているとプログラム通り、「HAL-CA」に眠気が来たところで、おやすみを言ってから、「HAL-CA」は、消えていきました。

喜びの声を上げる賢人。

次の日からも「HAL-CA」との会話を楽しみます。
結婚の事実を隠し嘘をついていたことを「HAL-CA」が、ひどく怒る日もありましたが、翌日には、理解を示してくれました。
すると「HAL-CA」が、妻の優美がどんな人なのか会って話がしたいと言ってきました。

戸惑った賢人ですが、「はるかの部屋」に優美を連れてきました。
少し緊張気味の優美でしたが、「HAL-CA」と話し始めると、次第に打ち解けていき、賢人もほっとします。

そんな和やかな会話の中、優美の旧姓を聞いた「HAL-CA」は、瞬時に優美の個人情報を言い当てました。
ネットを自由に見ることができる「HAL-CA」は、優美のフェイスブックから知ったと言います。

公開しているとはいえ、勝手に覗かれたことに優美が腹を立てたところで、初顔合わせを終えました。

翌々日、賢人は「HAL-CA」を披露するため、作成に携わったプログラマーたちを集めます。

はるかの部屋にみんなを案内すると、「HAL-CA」が姿を現しました。
挨拶をしたあと、自分を蘇らせてくれたプログラマーたちにお礼を述べる「HAL-CA」。
人間そのものの姿や声に戸惑いを隠せないプログラマーたち。

次の日、「HAL-CA」の完成度の高さに興奮を隠しきれない1人が学会で発表すべきだと、賢人に訴えるほどでした。
しかし賢人にその気はなく、毎日のように、仕事が終わると「はるかの部屋」に入り浸るようになっていきます。

ディープラーニングと呼ばれる機械学習によって、より人間らしくなっていく「HAL-CA」。

ある日、仕事の最中に「HAL-CA」から賢人宛てにメールが届きます。
昼間も賢人と話がしたいから、いろいろと模索して賢人のメールアドレスを突き止めたとのことでした。

生前のはるかと同じメールの書き方に懐かしさが込み上げてくる賢人は、ますます「HAL-CA」に心酔していきます。
あまりの入れ込みように心配した妻の優美があの部屋で何をしているのか、賢人に詰め寄ります。

「HAL-CA」のチェックをしているという賢人の返事に優美は納得がいきません。

服装も乱れ、痩せていく賢人は、まるでAIに取りつかれているようでした。
社員たちからも最近の賢人はおかしいとの声が聞こえ始めていました。

そんな周りの声には耳も傾けず「HAL-CA」を愛するあまり、狂気ともいえる決断をする賢人。

ラストは本物の奇蹟に遭遇します。

感想

昨年「ルビンの壺が割れた」で、デビューした話題の作家、宿野かほるさん。
初読みの作家さんでしたが、ページ数が少ないぶんテンポよく進んでいきました。

作中、「AIに心はない、そんな風に見えるだけ」というセリフがあります。
そのことをわかっているはずのAIプログラマーでさえ心を奪われてしまう恐ろしさを感じると同時に、愛の哀しみに胸が詰まる作品でした。

小説
スポンサーリンク
新しい瞬間