湊かなえ「望郷」全6編のあらすじ(ネタバレ無し)

小説

全6編の連作短編ミステリ-「望郷」は白綱島(しらつなじま)を舞台にそれぞれが独立した物語です。

白綱島は架空の島で、作者である湊かなえさんの出身地、広島県因島市(現・尾道市 因島)がモデルになっています。

美しい風景描写に瀬戸内海に浮かぶ島の映像が目に浮かんできます。

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あらすじ

 

「みかんの花」

姉と妹のわたし(主人公)がまだ小学生の頃、父の居眠り運転で、父と同乗していた女性(浮気相手と思われる)が父と共に亡くなるという事故がありました。

そのことで、姉はひどいイジメにあっていました。

そして、わたしと母を白綱島(しらつなじま)に残し、高校卒業間近になって姉は島で出会った放浪者と東京に駆け落ちしてしまいます。

姉がいなくなってから25年後、わたしの住む白綱島市が本土のO市に吸収合併されることになりました。

20年前に作家になっていた姉は白綱島市閉幕式にゲストで呼ばれ、帰郷してきます。
25年間何の音沙汰もなかった姉が、平然と帰ってくる姿にわたしは憤りを感じていました。

閉幕式を終え、姉が再び島を出て行く前に、25年前の不可解な放浪者との駆け落ち、その後一度も帰ってこなかった真相を姉に聞きます。

あまりに身勝手な理由を聞いたわたしは涙ながらに怒りをぶつけますが、姉が去った後、母から聞かされた真実に姉のやさしさを知り、姉を黙って送り出してあげました。

感想

最後まで姉のことを「島を捨てた人間のくせに」と、思っていた主人公が、姉を送り出す最後の言葉が胸に迫りました。
姉がいなくなったのは、原作では25年前ですが、ドラマでは20年前になっています。

 

「海の星」

浜崎洋平(はまさき・ようへい)の父が妻と息子1人を残し突然失踪したのは、洋平がまだ小学六年生の秋でした。

父がいなくなり、苦しくなった生活を少しでも助けようと考えた洋平は、魚を釣ってきては、母を喜ばせていました。

そんなある日、洋平がいつものように釣りをしていると、見知らぬおっさん(真野幸作)がやってきて、洋平が釣った魚に難癖をつけ、逃がしてしまいます。

怒った洋平におっさんはお詫びとして、逃がした魚よりでかい魚を洋平にあげます。
翌週もおっさんは釣りをしている洋平の許にやって来ると、今度は洋平にイカをくれて、そのイカを洋平の家でさばいてくれると言いだします。

断り切れなかった洋平は家に案内することに。
道すがら、家族構成を聞いてくるおっさんに不信感を抱きながらも家に上げてしまいました。

母との初対面を交わしたおっさんは、洋平の家をしばしば訪れるようになります。

父がいなくなってから3年が経ったある日、花束を持ったおっさんが正装して母の許にやって来ました。

おっさんは母に父は死んだんだと、次の幸せを見つけることを勧めようとしますが、父の帰りを信じてやまない母は激高して、おっさんを追い出します。

洋平は泣いている母を一人にしてあげようと、海へ行くとおっさんがしょんぼりと立っていました。

おっさんは洋平に詫びを入れると、バケツの水を海面にばらまき、夜の海面に青く輝く星が現れたような光景を見せた後、去っていきました。

それから高校生になった洋平は2年生の時、真野美咲(まの・みさき)と同じクラスになり、お互いに好意を抱いていきます。
しかし後に、美咲がおっさんの娘と知った洋平は美咲とケンカをしてしまいました。

2人は関係が冷え切り、卒業後も会うことなく、お互いの道を進みます。
あれから20年経ち、洋平のもとに美咲からハガキが送られてきます。父のことで話があるので会えないかと。

そして美咲と再会を果たした洋平は、美咲から語られる25年前の父の失踪と、おっさんの人知れず苦しんだ心の内を知ることになります。

感想

「海の星」は日本推理作家協会賞の短編部門を受賞した作品です。
それと父の失踪は原作では25年前で、ドラマでは20年前になっています。

おっさんは、もう少し考えて言えばうまくいったと思うのですが、不器用な人だったみたいです。
おっさんが見せた海面に光る青い星は、夜光虫というプラクトンが波などの刺激によって青く発光するそうです。

おっさんがやったみたいに、バケツですくった海水をぶちまけたりすると、発光するらしいのですが、見ることのできる地域や時期があるみたいです。
それと、夜の海は危険なので気をつけましょう。

 

夢の国

夢都子(むつこ)は夫と7歳の娘の奈波(ななみ)と子供の頃に夢見ていた「東京ドリームランド」に来ていました。

夢都子は「東京ドリームランド」に来ることすら許されなかった過去を回想します。

夢都子の姓が田山だった子供の頃は白綱島(しらつなじま)に住んでいました。
その田山家には父と母と絶対的な存在だった祖母がいました。

祖母は、田山の家に嫁いだ時、贅沢させてもらえなかったことを忘れられず、日常的に夢都子や夢都子の母を怒りのはけ口にしていました。

そんな祖母の顔色をうかがって生活をしていた夢都子たちが「東京ドリームランド」に行きたいと口にするのはもってのほかでした。

厳しい田山家は高校生になった夢都子に受験する大学さえも白綱島から出ることを許しませんでした。

島の大学に進学した夢都子は、教員免許を取るために教育実習を母校で受けることになり、そこで高校の同級生だった平川と再会します。

毎日帰りが遅くなり、バスの本数も少ないことから、平川の車で家まで送ってもらうことになります。
しかし近所の目を気にした母に咎められてしまいます。

それでも夢都子は平川と一緒に車で出掛け、朝帰りをします。
その夜、祖母が薬を飲むためにいつも用意していた水を母が忘れたため、発作を起こして祖母は亡くなってしまいました。

そのことで母は責任を感じて泣き崩れ、夢都子の無断外泊どころの話ではなくなりました。

平川との間に娘を授かり、結婚して幸せをつかんだ夢都子ですが、窮屈な人生を送ってきたのは祖母のせいではないんじゃないかと感じ始めます。

感想

どこかで聞いたことのあるような、東京ドリームランド。
子供の頃から憧れを持っていた夢の国へ。

ミステリではないのかなと思いましたが、終盤の祖母の死の真相には驚きました。
車で送ってもらっているところを、近所の人に見られてはまずいという心理描写が伏線を隠していることに再読して気づきました。

 

雲の糸

人気歌手の黒崎(くろさき)ヒロタカに元学友の的場裕也(まとば・ゆうや)から連絡が来ます。
的場の会社の創業50周年をやるから白綱島(しらつなじま)に帰って来て、ゲストとして出てくれと頼み込んできます。

断ればヒロタカの過去を、島民からマスコミにばらされる危険があるため、引き受けることに。
実はヒロタカがまだ1歳の頃に父の暴力に耐えかねた母は父を殺してしまいました。

5歳年上の姉はそのことを覚えているが、母のことを許していました。
しかしヒロタカは人殺しの息子だと、ひどいイジメを受けることに。

そのイジメの中心人物が的場裕也でした。

いじめられる原因を作った母に対しても完全には許しきれていません。
つらい子供時代、空ばかり見ていたヒロタカは、降りてきた飛行機雲に登り、ここを抜けだしたいと感じていました。

ヒロタカは帰省すると、母の服役中に、姉とヒロタカの面倒を見ていてくれた叔母の家に挨拶に行きますが、待ちかまえていた叔母の友人達から無茶な要求ばかりされ、うんざりしてきます。

パーティー会場に着くと並べられている花輪にヒロタカの事務所の大御所の名前を見つけます。
ゲストにヒロタカが来ることをいいことに、的場がヒロタカの事務所に頼んだものでした。

ヒロタカは勝手にそんなことをされ、憤りを覚えずにはいられませんでした。そんなヒロタカの気持ちを知ってか知らずか、散々無視していた島民も、あれだけイジメていた的場もスターになって帰ってきたヒロタカを大歓迎します。

それでもヒロタカは調子のいい島民や的場に対し我慢し続けます。
パーティーが始まると、ヒロタカのことをゲストでもあり、私たち島の家族だと紹介されます。

的場に呼ばれ、社員の家族達との写真撮影を強要されます。
しかし写真を撮るのは事件当時、マスコミに黒崎家の写真を提供した島のカメラマンでした。

そして、のどの不調もあるし、事務所との契約もあるので、歌うことは出来ないと言っていたにもかかわらず、無理やり歌わされることに。

的場がヒロタカを呼んだのは、的場が出馬する選挙のためにヒロタカを利用するためだと知っても、まだヒロタカは 耐え続けます。

パーティーも終わり家に帰ると、母が頭を下げ、謝り続けます。ヒロタカが大変な思いをするのも自分が過去に父を殺したせいだと。

散々な目に遭ったヒロタカでしたが、母の思い、母が父を殺した事件の真相を、姉から聞かされることに。
すべてを知ることになったヒロタカは、気持ちを改め、母への想いを強くしました。

感想

物語終盤、ヒロタカがあれほど嫌っていた古里に、再び帰ってくる決意に変えた姉の話には、心に響くものがあります。ホント、いい話でした。

 

石の十字架

今年の春、千晶(ちあき)はイジメで不登校になった10歳の娘、志穂(しほ)のために環境を変えようと昔住んでいたことのある白綱島(しらつなじま)に引越してきました。

その白綱島に72年ぶりとなる強大な台風が襲ってきます。
千晶と志穂が2人で家にいる時でした。

古い木造平屋建ての玄関に入ってきていた水が、徐々に床上まで浸水してきました。
外に逃げようにも風で飛ばされてきた障害物でドアが開かず、閉じ込められてしまいます。

助けを待つ間、千晶は志穂を励ますため、千晶が小学生だった頃の話を聞かせました。
千晶は25年前、小学5年生の時に関西のK市から祖母のいる白綱島の小学校に転校してきました。

K市にいた頃は父と母と千晶の3人暮らしでしたが、父が心の病にかかり自殺をしてしまいました。
そして、母は島には行かず、千晶のために働きに出て仕送りをすることに。

白綱島で早く友達の作りたかった千晶でしたが、あらぬ噂が広がったせいで友達ができなくなります。
そんな中、同じクラスの吉本(よしもと)めぐみ1人だけが千晶に話しかけてきます。

めぐみは千晶のような転校生でもないのに、周りから避けられ、友達のいない子でした。
そんなめぐみを最初は好きになれない千晶でしたが、次第にめぐみの感じの良さに好感を持つようになります。

それからしばらくたったある日、2人は白綱山で隠れキリシタンが彫った十字架を見つけます。

千晶はめぐみと親友になれますように、と願い事をしました。
そして2人は友情を育んでいきます。もう一つの十字架を見つけるまでは。

感想

小説、望郷の中でまだ映像化されていない唯一の物語です。
ミステリ要素は少ないですが、友達との絆を大切にする気持ちに心打たれます。
「言葉は知らないうちにナイフになる」気をつけましょう。

 

光の航路

20年前に亡くなった父と同じ教師の道に進んだ大崎航(おおさき・わたる)は前任校の生徒のいじめ問題に嫌気がさし、巻き込まれる前に故郷の白綱島に赴任されたことを喜びます。

平和な白綱島ならイジメ問題はないだろうと、たかをくくっていた航でしたが、受け持ったクラスでイジメが起きます。

小学六年の三浦真衣(みうら・まい)をイジメていた深田碧(ふかだ・みどり)の母親がモンスターペアレントみたいな人で、イジメていた証拠を突き出しても、謝るどころか弁護士を立てると騒ぎ出します。

問題を避けたい学校側は、航に碧の親に謝罪をするように強要します。

この学校にも嫌気がさしてきた航は、中学教師をしていた父の教え子だった畑野忠彦(はたの・ただひこ)と出会います。

航が教師になったのは父の影響ではなく、安定した職業、ただそれだけが理由だったことを畑野に話しました。

なぜ父のことを尊敬していないのか聞いてくる畑野に、航は父が教師だった頃、生徒に手を挙げた事があることを批判します。
航は教師の体罰には反対の立場でした。

そして航は小学三年生だった頃の話を始めます。
それは白綱島で最後の進水式のこと。

父と一緒に行けることを楽しみにしていた航でしたが、突然父だけが行けなくなったと言われ、母と2人で行くことになります。

最後の進水式が始まりました。
涙を流す大人達。
それだけ島の人たちにとって進水式は思い出が詰まっていました。

人混みの中、進水式に来れなくなったはずの父が、見知らぬ少年の肩に手を乗せ、2人で船を見送っていたところを航は目撃します。

後日、航のクラスでは進水式の話で盛り上がっていました。
式典の場、人だかりで前が見えなかったクラスメートは父に肩車してもらったことを、航にひけらかしてきました。

そして航はクラスメートを突き飛ばしてしまいます。
そのことを知った航の父は航に平手打ちをして叱りつけました。
実の子との約束を破り、他人の子と進水式に来ていた父に叩かれ、納得できませんでした。

それから父を避けるようになり、2年後に父は病気で亡くなります。

航から父との思い出を聞いた畑野は、なぜ航の父が航と進水式に行けなかったのか、どれだけ素晴らしい教師だったか、今度は畑野が航に聞かせました。

そして航は亡くなった父から、教師のあるべき姿を学び、生徒のいじめ問題に立ち向かう決意をします。

感想

進水式が終ったあと、父が教え子の畑野忠彦を海岸公園に連れて行き、船を眺めながら語る場面は感動的で、読了感は最高でした。

湊かなえさんの感動を伝える言葉をこれだけつくれるのは、ホントすごいです。
本書のラストを飾る物語でしたが、最後の最後まで、感動的な話で締めてくれました。

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