アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」あらすじ・感想!巧妙に仕組まれた掟破りなトリック

小説

1926 年に発表した「アクロイド殺し」は名探偵ポアロシリーズの第3弾であり、アガサ・クリスティの名を世に知らしめることになった一冊でもあります。

本作ではポアロの友人、ヘイスティングズはお休みですが、彼の代わりに事件の記録をつけ、ワトソン役を務めるのは医師のジェームズ・シェパードです。

それでは早速ですが、ネタバレ無しであらすじをご紹介します。

 

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あらすじ

典型的なイギリスの村「キングズ・アボット」。
9月16日から17日にかけての夜、この村に住むフェラーズ夫人が亡くなります。
17日の朝8時に医師のジェームズ・シェパードが駆けつけた時にはすでに手遅れで、死因は睡眠薬の過剰摂取でした。
不眠の続いていたフェラーズ夫人がうっかり飲み過ぎたのではないか、と推測するシェパード。

午前9時少し過ぎに自宅に戻り、姉のキャロラインと朝食を摂ります。
この村の人たちの娯楽の1つといえば噂話で、すでにフェラーズ夫人が亡くなった情報をキャロラインは入手していました。
彼女は一年ほど前、フェラーズ夫人のご主人がアルコールによって体を壊し亡くなられた時、「フェラーズ夫人が毒殺した」と、持論を述べていました。

そして今回は「夫殺しのフェラーズ夫人が良心の呵責に耐え切れなくなり自殺した」と、言い張っていました。
内心では姉同様に自殺の可能性を疑うシェパード。
昨日、フェラーズ夫人がラルフ・ペイトンという男性と何やらひそひそと話あっていたことを、ふと思い出します。
ラルフは、フェラーズ夫人と親密な関係を築いていたロジャー・アクロイドの25歳になる養子で、現在ロンドンにいるはずでした。

不安が胸によぎりますが、この日もシェパードは診療所に来ている患者の診察を行わなければなりません。
最後の患者はアクロイドの屋敷「ファンリーパーク」で家政婦をしているミス・ラッセル。
使用しても検出できない毒物はあるのか、と質問する彼女に、そんなものは存在しないと伝えました。どうやら彼女は推理小説の愛読者だったようです。

お昼頃、シェパードはラルフが地元の宿屋に泊まっていることを情報収集能力が高い姉から知らされます。
ラルフにはフローラという婚約者がいましたが、彼女は、アクロイドの弟の未亡人・セシルの娘で、2人の母娘は「ファンリーパーク屋敷」に居候中です。
では、ラルフは屋敷に行き、彼女と会えばいいのでは、と疑問が残ります。

そして、村はずれの森でラルフが正体不明の若い女性に「継父は自分にうんざりしているが、継父が死んだら僕は金持ちになれる。ここは僕に任せてくれ」と、話しているのを、キャロラインが立ち聞きします。

シェパードは、ラルフに何かしてやれることがあるだろうか、と彼の宿泊先へ向かいます。

シェパードの訪問を歓迎したラルフは「継父のせいで困ったことになっている。自分1人で立ち向かわなくちゃいけないことなんです」と、打ち明けます。

午後7時半、アクロイドの古い友人であるシェパードは、アクロイドの相談に乗るため彼の屋敷に行きます。
実業家として成功しているアクロイドの屋敷「ファンリーパーク」には家政婦のミス・ラッセル以外にも執事のパーカー、秘書のレイモンドといった優秀な使用人が大勢仕えていました。

シェパードは、屋敷に滞在していたアクロイドの友人で猛獣狩りの名人、へクター・ブラントと挨拶を交わします。
ディナーの後は、やせ細っていたアクロイドに書斎まで連れて行かれ、窓をちゃんと閉めるように頼まれます。
その後も、部屋の中をウロウロするなど、落ち着かない様子でした。

アクロイドによれば、2人の婚約を発表したい、とフェラーズ夫人に話したところ、夫人は泣き崩れ、粗暴だった夫を毒殺していたことを告白。
さらにその秘密を知ったある人物から脅迫され、大金を巻き上げられていたことも、夫人は打ち明けたと言います。
深いショックを受けていたアクロイドを見たフェラーズ夫人は、24時間以内に連絡すると言い残し去ったあとに、自殺してしまったとアクロイドは悔んでいました。

時刻は午後8時40分。

夫人を自殺に追い詰めた脅迫者に罪を償わせたい、と考えるアクロイドのもとに郵便物が届きます。
それは、ゆうべ死の直前に投函したと思われるフェラーズ夫人からの手紙でした。
昨日教えなかった脅迫者の名前をこの手紙で明かしたいと記されていたことから、アクロイドはどうしても1人になって読みたいと言います。

時効は午後8時50分。

シェパードが仕方なしに部屋から出ると、執事のパーカーがドアのすぐ前に立っていました。
「誰にも邪魔されたくない」と、アクロイドが言っていたことをパーカーに伝え、屋敷を後にします。
午後9時に門を出ると、襟と帽子で顔を覆い隠している人物から「ファンリーパーク」への道を訊かれます。

知り合いの声に似ていると気づいた時には、その人物は歩きだしていました。
シェパードはそれから10分後に帰宅。
午後10時15分を過ぎた頃、パーカーからアクロイドが殺された、と連絡を受けます。外科用の薬品や包帯を詰め込んだカバンを持ち、再び「ファンリーパーク」へと駆けつけますが、パーカーはそんな電話はかけた覚えがないと言います。
本当にただの悪戯だったのか。

パーカーと一緒に書斎のドアをノックして呼びかけても、返事はありません。
ドアは内側から鍵がかけられています。
不安になってきた2人はドアを押し破り中に入ります。
すると暖炉の前の安楽椅子に座っていたアクロイドは、背後から首を短剣で刺され殺されていました。

おそらく死後30分以上は経っているとみられ、シェパードが閉めたはずの窓が開いていました。
事態を聞きつけたレイモンドとブラントが書斎にやって来た頃、シェパードはフェラーズ夫人の手紙が見当たらないことに気づきます。
そして、パーカーが連れてきた地元警察の警部と巡査にこれまでの状況を説明します。

まずシェパードがアクロイドのもとを辞したのが8時50分。
そのとき窓は閉められて鍵が掛かっていましたが、ドアには鍵が掛かっていません。
それから9時に門の外で不審な人物と会い、9時15分に家に着いていました。
レイモンドとブラントは9時30過ぎに、書斎からアクロイドと誰かが話している声を聞いていましたが、9時45分におやすみの挨拶をしに、書斎へ行ったフローラが生きているアクロイドを最後に見ていました。
10時30分過ぎの時点で死後30分以上が経っていることから、これで犯行時間は9時45分~10時までの間に絞られました。

そしてその時刻にメイドのアーシュラ・ボーンだけにアリバイがありませんでした。
問題は、昨夜9時30分にアクロイドと一緒にいた人物が誰かということ。
シェパードは脅迫の件を警部に話し、誰が脅迫者だったのか、考えます。
どうやら警部はパーカーを疑っているようでした。
シェパードが書斎から出てきたとき、ドアの前で立ち聞きしていたことや、その後アクロイドから邪魔をされたくない、と伝言を受けていたにもかかわらず、書斎に入ろうとしていたこともわかりました。

凶器に使われた短剣はブラントがアクロイドに贈ったもので、応接間のシルヴァーテーブルの中にしまってあったものでした。
家政婦のミス・ラッセルは、今夜事件が起こる前にシルヴァーテーブルの蓋が開いているのに気づいたので、蓋を閉めたと話します。
ただし、その時に短剣がテーブルの中にあったかどうかまでは覚えていませんでした。

翌朝、シェパードは、最近隣に越してきた小男が、1年前に引退したあの名探偵エルキュール・ポアロだということをフローラから聞きます。
ラルフが警察に疑われていることを悟ったフローラが、彼の無実を証明してもらおうと思い、シェパード付き添いのもと、ポアロの家を訪ねます。
フローラから捜査を頼まれたポアロは、真実を望む、という彼女の言葉を受け、「では、お引き受けましょう。そしてその言葉を後悔しないことを祈ってます」と、依頼を承諾。

早速地元警察に頼み、捜査を手伝わせてもらう許しを得たポアロ。
屋敷に向かい、悲劇の起きた書斎を調べていると、現在ドアと窓の間に置かれている椅子が遺体を発見した時には、少し前に移動していた、と執事のパーカーから聞きます。
では誰が椅子を元の位置に戻したのか。
その人物は特定できませんでした。
一見重要ではなさそうなことですが「だからこそ、非常に興味をそそられる」と、ポアロは独特の視点から事件を眺めていました。

すでに警察が得ている情報では、門をくぐり屋敷の方へ歩いていくラルフを門番が目撃したのが、昨夜の9時25分。
アクロイドが書斎で誰かに金を無心されている声をレイモンドが聞いたのが、9時30分頃。
ラルフは継父の死によって莫大な財産を相続できるなど、動機も十分。
後に、ラルフが履いていた靴と同じ型の靴が、窓枠に残っていた足跡と一致するなど、あらゆることが、犯人はラルフだと示唆しています。
しかもラルフは、地元の宿屋に滞在していましたが、夕べの9時に外出してから戻ってきていません。

そして新たにわかってきたことは、事件の前日に録音機の会社からセールスマンがアクロイドを訪ねて来ましたが、アクロイドが購入しなかったため、セールスマンの訪問は無駄足になったとのこと。
しかし、そのセールスマンの外見とシェパードが門の外であった不審人物の外見は一致しません。
ではあの夜の訪問者は何者なのか。

フェラーズ婦人を脅迫していた人物、ラルフの謎の相手、そして9時半にアクロイドと一緒にいた人物は誰だったのか。
さらに、開いていた窓。鍵が掛かっていたドア。動かされていた椅子。
事件を知らせる電話。これらは誰の仕業でどんな意味が隠されているのか。

ポアロは言います。関係者全員が何かを隠していると。
そして、ひとりひとりの嘘が暴かれていき、驚くべき結末が待っています。

感想

作者から読者への挑戦みたいなものでしょうか。
この作品が発表された当時、読者からも書評家からも「フェア」か「アンフェア」か議論を巻き起こしたらしいですが、そこらじゅうにヒントが提示されているので、文句は言えないと思います。
先日当ブログで紹介した「五匹の子豚」でもそうでしたが、犯人は事実しか述べていません。
それでも記述に工夫を凝らし、読者を騙してしまうテクニックはクリスティならではと言えるでしょう。

それにしてもラストでポアロが犯人に告げる言葉にはびっくりです。

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